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[2022参院選 現場から] 米軍岩国基地 国際情勢緊迫 進む拠点化

外来機・艦船相次ぎ参集

 米国から空軍ステルス戦闘機のF35A18機とF22ラプター12機が米軍岩国基地(岩国市)に相次いで飛来し、基地所属機と訓練に飛び立つ。空母艦載機約60機が飛び去った6月は例年、基地周辺の騒音は少ない。空軍の外来機30機が岩国基地を拠点とするのは異例だ。

 「こんなに好き勝手に騒音をまき散らすのなら、沖合移設をすべきではなかった」。基地近くで暮らす山本満治さん(85)は語気を強める。滑走路を約1キロ沖合へ移す事業に向け、国側とやりとりした当時の岩国市の基地対策担当部長だ。

 福岡市での戦闘機墜落事故をきっかけに滑走路の沖合移設を求める声が強まり、「岩国市民の悲願」と呼ばれた。1992年に事業化が決まる前年、山本さんは担当部長に就いた。何度も上京し、国や自民党に地元の声と熱意を届けた。「岩国は国に対しておとなしいと言われた。騒音を減らし、市民の安全を守りたい一心だった」

騒音大幅に増加

 2010年に完成した沖合移設は、皮肉にも新たな負担を招く「呼び水」となったとの見方もある。在日米軍の再編に伴う18年の空母艦載機の移転だ。厚木基地(神奈川県)から約60機が移り、岩国基地は約120機が所属する極東最大級の航空基地となった。空母が横須賀基地(同)に戻る秋から春にかけての約半年間、艦載機は岩国基地で訓練し、周辺の騒音は大幅に増える。

 海兵隊や海軍の戦闘機に加え、20年度以降は空軍の外来機が降り立つことも珍しくなくなった。基地周辺で21年度に70デシベル以上の騒音測定は3万回を超えて沖合移設以降で最多となり、移設前に迫る水準となった。沖合移設に併せて整備された港湾施設には、21年度から海軍の強襲揚陸艦など大型艦船が度々寄港する。

 岩国基地を巡る動きについて、複数の軍事専門家はロシアのウクライナ侵攻が長期化するなど国際情勢が緊迫し、運用が活発化しているとみる。港も備え、海軍と海兵隊、海上自衛隊が共同利用する岩国基地で米軍の戦略上、拠点化が進んでいるとする。

 世界にまたがる米軍基地を比較研究する東京工業大の川名晋史准教授(国際政治学)は「滑走路が沖合に移設された時点で、基地機能の強化こそあれ縮小はない。沖縄がそうだったように、いったん軍が根を張ると自治体や市民が声を上げなければ、想定されていなかった新しい役割が追加される」と指摘する。

安保の「最前線」

 北朝鮮が相次いで弾道ミサイルを発射し、中国は台湾に圧力をかける。岸田政権は参院選を前に、ロシアを加えた近隣3カ国の脅威に備える必要があると訴えを強める。地元選出の岸信夫防衛相(山口2区)はアジアの安全保障を語る時、日本を「最前線」と表現する。

 「国防への協力は一定に理解している。それでもこんなはずではなかった。多くの市民が基地の現状をしょうがないと感じるのが怖い」。山本さんは不安を拭えない。政権が支持を得るために危機意識をあおっているようにも映るからだ。基地の空の下に住む人たちの思いをくんだ安全保障や外交の論戦が参院選で深まることを願う。(有岡英俊)

    ◇

 22日公示、7月10日投開票の参院選が迫る。私たちは1票に何を託すべきなのか。中国地方の現場から国政の課題を見る。

(2022年6月21日朝刊掲載)

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