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社説・コラム

社説 参院選きょう公示 日本の針路が問われる

 参院選がきょう公示される。8カ月たつ岸田文雄政権の評価が問われるだけではない。日本の在り方、戦後の岐路に立つ社会の行く手を占うといえる。

 岸田政権にとっては参院選を乗り切れば2025年まで国政選挙の予定がない「黄金の3年間」を得る局面にある。新型コロナウイルス対応への批判で倒れた菅義偉前政権に比べ、無難なかじ取りで内閣支持率を保ってきた。このまま選挙戦に臨みたいところだろう。

 しかしここにきて食品やエネルギーの値上げラッシュが暮らしを直撃し、物価高対策が最大の争点に急浮上した。要因の一つである円安は金融緩和に偏った経済政策アベノミクスの結果ともいえる。対症療法ではなく国民の不安や懸念に真正面から応える対策を論じ合うべきだ。

 立候補予定者の顔ぶれを見ると、選挙区で与野党の対決構図をつくれたとはいえない。鍵を握る1人区で、野党の統一候補は全国32のうち11にとどまる。全区で一本化した16年、19年とは一変して選択の受け皿がばらつき、自民党は目標を手堅く「非改選を含めて与党で過半数」としている。

 そうした情勢に物価高が影響を与える可能性があろう。直前の共同通信世論調査で、首相の対応を「評価しない」が6割を超えた。投票で重視する政策を尋ねた別の調査では物価高対策が突出する。肝心の政策が見えないといら立つ声ではないか。

 きのう日本記者クラブが主催した9党首の討論でも、論戦の柱だった。首相は公表したばかりの輸入小麦の売り渡し価格の据え置き策に触れ、「物価高の要因であるエネルギー、食品に政策を集中させた」と胸を張った。一方、野党は小手先では生活を守れないと批判し、消費税の減税を軸に訴えた。賃金アップや、経済底上げの議論も含めて掘り下げてほしい。

 憲法改正が争点へと押し上げられている現状は冷静に受け止めたい。首相は長期政権を見据えてか、自民党の公約に早期の憲法改正を打ち出した。9条への自衛隊明記など党の改憲案4項目が念頭にあるだろう。さらにロシアのウクライナ侵攻で安全保障環境が一変した機会を捉え、防衛費の大幅な増額と、国是である専守防衛の転換につながる「敵基地攻撃能力」の保有まで掲げた。

 野党の一部も前のめりである。平和外交に軸足を置く日本の姿を変えるだけに、有権者は見極める必要があろう。

 忘れてはならないのは「政治とカネ」の問題である。3年前の広島選挙区は大規模買収事件の舞台となった。元農相は鶏卵業者から現金を受け取り、収賄罪で有罪判決が確定した。地方選挙を含め、政治家が金銭のグレーなやりとりをした例は枚挙にいとまがない。論戦を呼ぶためには、有権者からも問い続けなければなるまい。

 参院選は政権選択の衆院選よりも関心が低い傾向が拭えない。輪をかけて前回選は選挙区の投票率が48・80%と過去2番目に低かった。広島、岡山両県はワースト10の常連である。

 物価高で改めて、政治は一人一人の暮らしに直結すると感じた人も多いのではないか。まずは各党の政策と論戦をチェックし、未来を選択する1票を投じたい。

(2022年6月22日朝刊掲載)

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