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社説・コラム

『想』 福本英伸(ふくもとひでのぶ) 核の歴史、峠の分かれ道

 広島の紙芝居作家として主な活動の一つに東日本大震災の心の支援がある。東北に届けた紙芝居は170作品。震災から10年を区切りにそれらのアニメ化にも挑んでいる。最新作「ふくしま原発はじまり物語―峠」は福島に原子力発電所がつくられるまでを描いた物語だが、アニメ化に当たっては躊躇(ちゅうちょ)があった。

 原爆投下から原発事故までの間、核を巡る出来事を福島の被災者の人生に置いてみたに過ぎないのだが、間違いはないかとの不安は拭えなかったからだ。

 それでも作らざるを得なかったのは、原発建設の歴史を調べる中、ヒロシマが頻繁に登場するからだ。「原子力平和利用博が広島の原爆資料館で行われた」「大熊の原発建設の担当者は被爆者だった」「浪江町への原発誘致に反対した地主は原爆被害を目にしていた」などがある。とりわけ衝撃だったのは日本初の原発が広島につくられようとしていたことだ。一連の事実を前にしたとき、福島に通い続けた11年はこの作品を作るためにあったと思った。“支援”から“責任”に変わったのだ。

 人類はヒロシマで核の破壊力を目にし、チェルノブイリで汚染地域は100年間、立ち入り禁止になることを知った。電源喪失により原子力発電所は爆発の危機に至ることを福島で学んだ。そして2022年、ウクライナでの戦争だ。原発は戦時において攻撃対象となり、いとも簡単に「人質」になることに気づいた。そんな中、私は「峠」を作りながら、人類にとり、かくも重大な出来事が、わずか77年の間、つまりたった1人の時間軸の中で起きたことなんだということを伝えねばと思った。

 核を受け入れるべきか否か、何度となく議論すべき機会、つまり峠の分かれ道があった。その都度、人々は頂を目指し登り続けた。今また、紛争によりエネルギー危機が高まり、原発再稼働が求められている。一方で核使用を防ぐには核保有しかないとの声も高まっている。議論はすべきだと思う。そして議論にあたって素材の一つに「峠」がなることを望む。(まち物語制作委員会代表理事)

(2022年5月13日セレクト朝刊掲載)

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