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社説・コラム

[A Book for Peace 森田裕美 この一冊] 「沖縄鉄血勤皇隊」大田昌秀編著(高文研)

学徒兵の悲劇 哀悼の書

 5年前の6月12日。息を引き取ったその日は92歳の誕生日でもあったという。元沖縄県知事の大田昌秀さん。熾烈(しれつ)な沖縄戦を生き延びた体験から、研究者として、政治家として、命の重みを伝え続け、平和を脅かす米軍基地問題の解決に心血を注いだ人である。くしくも同日出版されたこの編著書は「遺言」とも言える一冊となった。

 いくつもの地獄を同時に一個(か)所に集めたかのよう―。大田さんがそう言い表す沖縄戦では、県下12の男子中等学校から10代の学徒が召集され「鉄血勤皇隊」として戦場に送られた。

 大田さんも沖縄師範学校在学中、その一員に。多くの仲間が非業の死を遂げる中、九死に一生を得る。戦後は生きる意味を問い続け、琉球大教授を経て県知事や参院議員、沖縄国際平和研究所理事長などを歴任した。

 「学友たちの血で以(もっ)て購(あがな)われたものに他ならない」。自らの生をそう捉え、亡き人たちの無念を晴らそうとした。沖縄が日本復帰後も抱える不条理に声を上げ続けた。

 本書はその集大成であり、哀悼の記録だ。資料や証言をつぶさにあたり、鉄血勤皇隊の編成過程や役割といった総論を押さえた上で、動員された学校ごとに行動記録や体験者の声を集めた。学友の遺骨を拾った自身の慰霊体験もつづり、亡くなった一人一人の名を刻んだ。執念がにじむ「遺言」の書は、仲間たちの生きた証しでもある。

 ロシアのウクライナ侵攻で世界の軍拡が誘発され、一部政界やネット上には勇ましい言葉も飛び交う。そんな今、鉄血勤皇隊の悲劇から学ぶべき教訓は多い。

これも!

①川満彰著「沖縄戦の子どもたち」(吉川弘文館)
②三上智恵著「証言 沖縄スパイ戦史」(集英社新書)

(2022年6月27日朝刊掲載)

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