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社説・コラム

社説 ’22参院選 憲法 改正ありきの姿勢疑問

 結果によっては憲法改正が一段と現実味を帯びることを、私たち有権者は理解しておく必要がある。

 参院選では、憲法改正に前向きな「改憲勢力」が国会発議の要件「総議員の3分の2以上」を確保するかどうかが焦点の一つとなる。

 自民党の茂木敏充幹事長は公示の前々日、「選挙後できるだけ早いタイミングに改憲原案を提案して発議を目指したい」と述べた。3分の2以上の議席確保を前提にした発言である。何をどう変えるのかさえ決まってないのに発議とは、改憲自体が自己目的化してはいないか。

 新型コロナウイルス禍やロシアのウクライナ侵攻を受け、非常時に政府や国会をいかに機能させるかを話し合うのは重要だ。しかしながら、先の通常国会の改憲論議は危機感を「奇貨」として進んだ印象がある。

 白紙委任とならぬよう、各党の選挙公約を吟味し、戦後平和主義を貫いてきた日本をどんな方向に進めようとしているのかを見極め、投票したい。

 改憲勢力とは、自民党、日本維新の会、国民民主党、改憲派の無所属・諸派議員と、憲法に新たな条文を加える「加憲」を掲げる公明党の総称である。

 昨秋の衆院選で国会の環境は激変した。維新や国民民主が議席を増やし、改憲に慎重な立憲民主党と反対の共産党が減らしたためだ。自民党総裁の岸田文雄首相が議論を促すと維新や国民民主が後押しし、「論憲」を掲げる立憲民主なども立場を表明する方針に転じたため、先の通常国会で衆院憲法審査会の開催は過去最多の16回に及んだ。

 自民党は9条への自衛隊明記など党改憲案4項目のうち、緊急事態条項の新設を改憲の突破口にする考えだ。改憲4党は大規模災害や感染症のまん延時に国会が機能するよう、国会議員の任期延長について「必要性がある」との認識で一致する。

 しかし自民案の中には法律と同じ効力を持つ緊急政令を制定できる内閣の権限強化や人権制限が盛り込まれている。そもそも憲法は国民の権利や自由を守るため権力に縛りをかけるのが役割だ。そうした立憲主義のたがを緩めることは許されまい。

 9条を巡っては自民、維新が自衛隊の明記を主張する。その先には、敵基地攻撃能力を言い換えた「反撃能力」の保有や防衛費の増額がある。防衛政策の基本方針である「専守防衛」の見直しにつながりかねず、安全保障の比重が外交から「力」へ変化することを意味する。

 平和の党をうたう公明は9条を堅持し、別条項での自衛隊明記を検討するとしている。

 戦後、憲法を肌身になじませてきた国民の間に自衛隊の存在も定着してきた。9条改正の賛否が拮抗(きっこう)する世論を踏まえれば慎重に議論を進めるべきだ。

 共同通信が公示前に行った全国電話世論調査で何を最も重視して投票するかを尋ねたところ、物価高対策・経済政策が最多の42%だったのに対し、憲法改正は3%にとどまった。大切な税金をどう使うか、国民の判断は明らかだ。改憲の機運が高まっているとは到底言えまい。

 岸田首相は「国会の議論と国民の理解は車の両輪だ」と述べている。国民の声が求めているのは、「改正ありきの議論」を急ぐことではないはずだ。

(2022年6月26日朝刊掲載)

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