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社説・コラム

天風録 『メダルの価値』

 金なら10万円、銀は5万円―。メダルの買い取り価格が安いのか高いのか、30年近くたった今もよく分からない。広島アジア競技大会に出場したアスリートが、コイン店に売り払った▲選手にとって、手にしたメダルは積み重ねてきた努力の結晶のはず。他国への移住資金にするため、最も重い「金」まで売ってしまうとは、メダルの価値を自ら下げるようなものだろう▲この人が最近売ったのは五輪ではなく、ノーベル平和賞のメダルだった。昨年受賞したロシアの独立系新聞のムラトフ編集長である。プーチン大統領の強権政治に抗する編集活動が賞につながった▲その証しのメダルには競売で140億円もの値が付いた。過去のノーベル賞メダルの最高値の20倍以上というから驚くほかない。売り払ったのは自分のためではない。ロシアの侵攻に苦しむウクライナの子どもたち支援のために使ってもらうという▲趣旨に賛同して大枚をはたいた人も平和賞に値するのかもしれない。ただ戦火にさいなまれているのはウクライナだけではない。世界中で争いがやみ、子どもたちに笑顔が戻る日が待ち遠しい。どれほど高価なメダルでも、それに勝るものはないのだから。

(2022年6月25日朝刊掲載)

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