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2022参院選 あしたへの疑問 <5> 日本は戦争しませんか

防衛費増額論 募る不安

 国防力を抜本的に強化する―。自民党が掲げる公約の一つだ。「胸がざわざわする」と、広島県の30代女性はつぶやいた。「大切な人が危険にさらされるかも」。自衛官の夫がいる。

 ≪結婚してすぐ、自衛官の家族のしんどさを思い知りました。護衛艦乗りの夫が、2カ月近く家を空けたんです。電話もつながらない。怖くなりました。もう生きて会えないかもって。
 ただでさえ、夫の帰りを心配しながら待つしかない毎日。なのに政府はかつてなく、自衛隊の増強に前のめりですよね。一体、何をさせたいの? 戦場に送られることもあるかもしれない。不安しかありません。≫

 岸田文雄首相は日本時間の27日、ドイツで開かれた先進7カ国首脳会議(G7サミット)で、「防衛費の相当な増額を確保する」と宣言。対国内総生産(GDP)比2%以上への増額も念頭に置く。2%なら年11兆円に上るが、ウクライナ危機に揺れる世論は支持する傾向が強い。共同通信社が6月に行った世論調査でも、過半数が賛成した。

 自民党は公約に「反撃能力」の保有もうたう。敵国が攻撃を仕掛けてくる兆候を捉え、そのミサイル発射基地を破壊する力を持たせようとしている。女性は「こんな攻撃的な姿勢、周辺の国々を緊張させますよね」と不安を募らせる。

 ≪たまらず、夫に辞職してほしいと頼んだこともあるんです。彼は「余計なこと言うな」と。でも口に出せないだけで、不安を募らせている隊員もいると思う。
 「戦地に行くのはどうせ自衛官。頑張って当然」。そう思う人も多いでしょうね。でも、本当に戦争になったら傷つくのは私たち市民です。人ごとと思わないで。政治家は指揮官気取りで、自衛隊にどんどん新たな役割を負わせている。いいかげん、世論で止めてほしいんです。≫

 自衛隊の任務は、確かに拡大されてきた。政府は1990年の湾岸危機を受け、翌年、初の本格的な海外派遣に踏み切る。米国がテロとの戦いに入ると、派遣目的も「対米協力」に傾いていった。さらに2014年、第2次安倍政権は憲法解釈を変え、集団的自衛権行使を認めると閣議決定した。

 広島修道大の佐渡紀子教授(国際安全保障論)は、政府がさらなる国防強化を図る背景に中国の台頭があるとみる。軍事力を年々増強し、海洋進出を加速させる中国。人工島造成や領海侵入を繰り返している。

 「米国の相対的な力も落ち、日本は『米国が守ってくれる』と十分に期待できなくなってきた」と佐渡教授。一方、警鐘も鳴らす。「防衛力強化の動きは、周辺国の軍拡に拍車をかけかねない。日本は武力を使わずに、ロシアのような国を抑える新たな仕組みを考えていく必要がある」

 自民党は9条に自衛隊を明記するなどの改憲案も示す。他に「改憲勢力」とされるのは日本維新の会、国民民主党、憲法に新たな条文を加える「加憲」を掲げる公明党など。参院選で、改憲の発議に必要な3分の2以上の議席を獲得するかどうかも注目される。

 「園児に何をどう伝えるか。考える毎日です」。そう語るのは広島市東区の保育士鈴木裕子さん(37)だ。

 ≪ロシア軍が自国の反戦デモを制圧する映像を見たんです。ぞっとしました。国家の力って大きいですよね。私たちも「お国のため」と教え込まれ、戦争に走った歴史がある。一人一人の意思とは関係なく、また争いに巻き込まれかねないと怖くなったんです。
 保育士として、子どもたちに平和の尊さを伝える責務を痛感しています。ウクライナの話をすると、園児は幼いなりに考えてくれる。「戦争やめてって言いたい」「どっちの国の子もお母さんが死んだら嫌だと思う」って。何よりも命が大事だと園児も分かっている。「何があっても戦争しません」。この子たちに、そう約束できる国であってほしいです。≫(編集委員・田中美千子)=おわり

(2022年6月28日朝刊掲載)

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