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社説・コラム

『想』 松尾剛(まつおつよし) いま輝く広島の思い

 「お好みワイドひろしま」を担当して2年たちました。当初は多くの地名にふりがなが必要なありさまでしたが、今では字名(あざな)でも読めるものが増えてきました。新型コロナウイルス感染拡大の間隙(かんげき)を縫って各地に出かけたり、ジョギングで筋肉痛を繰り返したりした時間の分、広島が自分の中に染みわたったような感覚があります。話題の映画「ドライブ・マイ・カー」がアカデミー賞を受賞した時は、映画に登場する見知った風景に「わが街の映画」として誇らしい気持ちになりました。

 もう一つ、広島に来て体に染み込んだ感覚が「77年前投下されさく裂した原子爆弾」と「現在の自分」との距離の近さです。町には爆心地を知る手掛かりに原爆ドームという目印があり、ふとした瞬間「今同じことが起きたら自分はどうなる」と考えさせられます。体験を丁寧に語り継ぐ被爆者の皆さんの努力に触れるたび、原爆がもたらした苦しみが過去のものではなく、今に続いていると感じます。どんな時でも一瞬のうちにあの日に引き戻される。広島に住むまではなかった感覚です。

 平和を願う広島の姿は、ますます輝きを放っています。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が発生した時、被爆者をはじめ市民はすぐに「被害を受けるのは罪もない市民だ」と反対の声を上げました。核兵器使用をちらつかせるプーチン氏に対し「絶対許さないという強い思いを広島から発信していこう」と怒りの声を大きくしました。サンフレッチェ広島も核兵器廃絶や世界平和を願うメッセージ動画を発信しました。「広島のクラブだからこそ発信しなければならない」というコメントに世界で初めて戦争被爆を経験した広島の思いが込められていると感じます。平和の危機に対する鋭敏な感覚、核の脅威への研ぎ澄まされた反射神経は、人々が77年間積み重ねてきた努力がこの地に広く深く染み込んでいることを示していると思います。

 3年目の担当になる番組でも広島の思いをさらに広く発信していこうと考えています。(NHK広島放送局アナウンサー)

(2022年4月23日セレクト朝刊掲載)

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