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社説・コラム

『潮流』 「その先」へ進むには

■ヒロシマ平和メディアセンター長 金崎由美

 核兵器禁止条約の記念すべき第1回締約国会議が開かれた先週、ふと過去の取材資料の束を引っ張り出した。オーストラリア外務貿易省が核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN(アイキャン))の請求に応じて2014年に開示した文書で、13年秋に軍縮大使らが本国と交わしていた公電やメールである。

 条約実現を見据え、有志国が動き始めた時期だ。ニュージーランドなどが国連総会で核兵器の非人道性と不使用を訴える共同声明案を提出。米国の「核の傘」に依存する日豪両政府の出方が注目されていた。

 「いかなる状況でも」核兵器を使わない、とする文案への豪政府の反発ぶりが伝わってくる。「使用がもたらす人道上の結末ゆえに、核抑止力は機能」「核抑止力の信頼性を保つには、わが国に代わり(米国が)核兵器を使うという最終手段を排除できない」

 日本は同様の立場だが、国内世論に押されて一転、賛同国に名を連ねた。「日本の外務省は2週間検討し、岸田文雄外相に賛同を進言」。オーストラリアは追随せず、ニュージーランドと張り合うかのように別の共同声明案を用意した。

 今回、オーストラリアがドイツなどに次いで締約国会議へのオブザーバー参加に転じた。閉会間際に、それらの国が議長から謝辞と拍手を送られるさまが世界に配信された。追随しなかった被爆国の不在を悔しく思う。同時にオブザーバー国の発言を聞くと、核抑止力にすがる限り条約へのさらなる関与は難しいとも痛感させられる。

 G7サミットの広島開催が来年5月19~21日に決まった。先進7カ国は核抑止力を保持する国か、核依存国。岸田首相ら首脳が打ち出すメッセージは―。それを私たちはどう受け止め、発信するか。数々の困難を経ながら条約の推進に力を尽くす世界の市民が注目することを肝に銘じたい。

(2022年6月30日朝刊掲載)

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