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故阿川さん 戦争刻む筆致 1万2000点 呉・大和ミュージアムに寄贈 来月から一般公開

 呉市の大和ミュージアムは、名誉館長を務めた作家の阿川弘之さん(1920~2015年)の遺族から、代表作「雲の墓標」の直筆原稿や書簡、愛用品など計約1万2千点の寄贈を受けた。29日、一部を報道陣に公開した。来月から始まる企画展で展示する。

 寄贈されたのは、数百冊に上る取材ノートや愛用の眼鏡、師事した作家志賀直哉からのはがきなど。「軍艦長門の生涯」などの推敲(すいこう)中とみられる原稿には、裏面に本人や家族が書いたメモや落書きが残り、阿川さん一家の生活感が伝わる。推敲段階の原稿は焼却処分することが多く、残っているのは珍しいという。

 阿川さんは広島市生まれ。東京帝国大(現東京大)を繰り上げ卒業し、予備学生として海軍に入った。戦後、綿密な取材と自身の体験も基に、特攻隊員を描いた「雲の墓標」をはじめ、戦争や原爆を扱った作品を多く執筆。大和ミュージアムが開館した2005年から名誉館長を務めた。

 昨年12月に遺族から申し出があり、学芸員らが確認などの手続きを進めていた。戸高一成館長は「小説ができるまでの経緯だけでなく、(阿川さんが取材した)戦争を知る人たちの証言が記録された貴重な資料だ」と話した。

 7月16日に開幕する企画展「海軍を描いた作家」で寄贈品約20点を展示し、阿川さんの書斎の一部を再現する。(仁科裕成)

(2022年6月30日朝刊掲載)

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