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核兵器禁止条約 第1回締約国会議を終えて <下> 非人道性共有 拡大の鍵

保有国側に変化の兆し

 「率直に対話し真摯(しんし)に議論することが重要だ。それがわれわれがここにいる理由だ」。6月22日、2日目を迎えた核兵器禁止条約の締約国会議でドイツ政府の代表が強調した。ノルウェー、オランダ両政府の代表は「核兵器のない世界を実現するとの目標は共有している」などと条約に寄り添う立場を表明。集まった大勢の日本メディアが取り囲み、発言を本国に届けた。

 発言が注目を集めたのは、この3カ国が国防を米国の核兵器に依存する北大西洋条約機構(NATO)の加盟国でありながら、会議にオブザーバー参加したからだ。加盟国のベルギーや米国の「核の傘」の下にあるオーストラリアも会議に参加。現地入りした非政府組織(NGO)や市民の間に歓迎ムードが広がった。

明確に批准拒否

 一方で3カ国は、禁止条約への批准を拒否する姿勢を明確にした。ドイツは「NATOの一員であることと相反するため、条約加盟はできない」と指摘。ノルウェーは「オブザーバー参加は禁止条約に署名・批准するステップではない」と断言した。オランダは、核兵器保有国が加盟する核拡散防止条約(NPT)を重視し、「NPTの文脈の中で協議し、妥協点を探るべきだ」と主張した。

 核兵器廃絶を目指す各国の姿勢に理解を示しつつ、核抑止への依存は維持するとした3カ国。NPTに加盟し、米国の「核の傘」の下にある日本も早々とオブザーバー参加を見送った。ロシアのウクライナ侵攻で核兵器使用のリスクが高まる中、条約推進国との溝があらためて浮き彫りになった。

NPTと「協力」

 溝を埋めるため、条約推進国は腐心した。顕著に表れたのが、締約国会議で採択したウィーン宣言だ。「NPTは軍縮・不拡散体制の基礎」「全てのNPT加盟国と建設的に協力することを改めて約束する」―。NPT体制の重視を鮮明にし、両条約が共存できることを強調。宣言と同様に最終日に採択した行動計画では、両条約が補完し合う関係にあると位置づけた。

 この戦略が奏功するのか。今年8月に米ニューヨークの国連本部で開かれるNPTの再検討会議が重要な局面となる。条約の運用状況を協議する会議は5年に1度開かれ、当初は2020年春の予定だった。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で延期が繰り返される間に、ロシアがウクライナに侵攻し、核兵器の使用を示唆した。

 NATO加盟国の締約国会議参加を巡り、阻止に向けて圧力をかけた米国は今回、一部の国の参加を黙認したとされる。核兵器保有国側に見え始めた「変化の兆し」を、禁止条約への参加国拡大につなげられるか。長崎大核兵器廃絶研究センター(RECNA)の中村桂子准教授(核軍縮)は「核抑止に依存する国と禁止条約の推進国が、核兵器のもたらす結末と使用リスクの高まりについて共通認識を持つことが大切だ」と指摘。再検討会議で核兵器の非人道性をより強調した最終文書が合意されることが重要になるとみる。(小林可奈)

(2022年7月1日朝刊掲載)

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