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クルド人の苦難、知っていますか? 虐殺・弾圧の歴史 ヒロシマと重ね トルコ在住の2人 「悲しみ共有を」

 中東各国に分断されて住み、「国家を持たない最大の民族」と呼ばれるクルド人。意外にも、広島は特別な存在だという。クルド人たち約5千人が犠牲になった「ハラブジャの虐殺」と原爆投下を重ね合わせた歌では「広島は私たちの姉妹。広島で起きたことを忘れない」と歌う。一方で私たちは―。「皆さんはクルドを知ってますか」。6月上旬、トルコから広島市を訪れた2人が問うた。(高本友子)

 広島市立大(安佐南区)の教室。ジャーナリストのイルファン・アクタンさん(41)は、イラクの旧フセイン政権が1988年に同国ハラブジャで化学兵器を用いクルド人たちを殺害した過去を語った。民族音楽研究者のセルダル・ジャーナンさん(36)は「広島の人たちは悲しみを共有してくれるはず」と訴えた。

 クルド人はトルコ、イラク、イラン、シリアをまたぐ地域などで暮らす。総人口は2千万~3千万人というが各国では少数派。トルコでは独立派への弾圧が続く。100年以上前から政府の同化政策に直面し、最近までクルド語の使用も禁じられていたという。

 ジャーナンさんは「言語を奪われても政府は家の中までは入ってこられない。歌を通じて生活文化や歴史をつなげようとしてきた」と力を込めた。

 2人は京都大の研究者たちの招きで4月に来日。4カ月の滞在中に訪問を希望したのが被爆地広島だった。現在は在日クルド人のドキュメンタリーを制作している。カメラを向けるのは、紛争や弾圧から逃れて来日し、埼玉県でクルド人社会を形成している同胞。入管行政を巡る日本の深刻な人権問題も映し出す。

 日本国内に約2千人いるクルド人は難民申請をしても一人も認定されていない。在留資格がないまま入管施設での収容を一時的に解く「仮放免」の立場で暮らす人も多い。アクタンさんは「国に帰れば安全を保証されないクルド人は日本でも不安定な状態にある。なぜ手を差し伸べないのか。自国の政策を考えてほしい」と参加者に訴えた。

 講義に参加した1年錦織愛理さん(19)は「ヒロシマの痛みを知る私たちは難民問題も含めてクルド人の痛みを理解する責任がある」と話した。

(2022年7月4日朝刊掲載)

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