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社説・コラム

天風録 『埋もれていた歴史』

 偶然発見した住民は、さぞ驚いただろう。JR広島駅の北、広島東照宮近くの国有林の土の中にその碑は眠っていた。碑文から1802年に死去した広島藩の砲術家、奥楳明(ばいめい)の門弟たちが七回忌に建立したものだと分かる▲話を聞いても正直、名前すら知らなかった。数少ない文献によると初代藩主の兄の武将、浅野幸長(よしなが)に教えた砲術の師の流れをくみ、銃の改造や火薬製造に貢献した人物。和歌や茶道に通じた風雅の人でもあったらしい▲よく考えれば、江戸時代の広島については知らないことが多い。この碑も戦前までは大切にされたと聞くが、いつしか土に埋もれた。先人への関心の乏しさからか。仮に他の城下町なら楳明はもっと語り継がれたはず▲原爆投下による歴史の断絶を思う。確かに浅野氏の広島入城400年の3年前には、藩政期の営みに光が当たった。広島城は天守閣の木造復元や三の丸の展示施設の動きもある。ただ市民の熱気はどれほどあるだろう▲いま福山の築城400年の盛り上がりがまぶしく映る。広島では協賛を募り、碑を復元する有志の委員会が発足した。埋もれた歴史を取り戻したい。原爆で失われたものの大きさを感じ取るためにも。

(2022年7月3日朝刊掲載)

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