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社説・コラム

『潮流』 被爆した3人の絵

■尾道支局長 持田謙二

 花瓶に生けたオレンジ色の花、海を見下ろす山の中腹に広がる畑、白地に緑の模様が入ったワンピースの女性…。多くは穏やかな色彩で描かれている。作品を所蔵する長野県上田市の戦没画学生慰霊美術館「無言館」の窪島誠一郎館主は「絵を描きたい。もっと生きたいという声が聞こえてくる」という。

 尾道市瀬戸田町の平山郁夫美術館で22日まで開かれている「ふたりの被爆画学生」展。広島で被爆し10日後に31歳で亡くなった竹原市出身の手島守之輔と、原爆投下翌日に長崎に入り、約1年後に23歳で亡くなった伊藤守正の作品計28点が並んでいる。

 所蔵する133人の約600点を、遺族を訪ねて一点一点収集した窪島館主によると、召集令状が届き戦地に赴くまでは半月ほど、短ければ5日間だったという。残されたわずかな時間も絵にささげた。「未熟かもしれないが、いちずな思いが迫ってくる」。戦争が、原爆がなければ、思いのままに絵筆を振るい、多くの作品を残していたことは想像に難くない。

 隣の展示室には、内戦で破壊されたアフガニスタンの建物や、紛争により破壊された旧ユーゴスラビア・サラエボの廃虚に立つ子どもたちを描いた平山画伯の作品や下図が並ぶ。15歳で被爆し、後遺症に苦しみながら平和の願いを込めて描き続け、海外の文化財保護にも尽力した。2人のように志半ばで亡くなった人の思いも、胸の内に去来していたのかもしれない。

 ロシアの侵攻が続く、ウクライナの子どもたちの絵画をニュースで見た。ミサイルに破壊されたビルを、荒々しく描き殴った男の子がいた。侵攻前に描かれたほかの子の絵には、友達と遊ぶ笑顔があった。平和な暮らしを素直に描ける日が、一日でも早く来てほしい。会場に並ぶ2人の穏やかな作品を見て思う。

(2022年7月5日朝刊掲載)

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