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連載・特集

緑地帯 村中李衣 絵本の読みあい あっちそっち②

 山陽小野田市にあるこぐま山の保育園で、久しぶりに子どもたちと絵本を読みあった。園舎を囲む山の斜面が子どもたちの遊び場。小石をひょいひょいまたぎ越し、草をかき分け走り回るそのたくましさに圧倒される。ついていくだけでふくらはぎが攣(つ)りそうになってぼぉ~っと立ちすくんでいると「ここで絵本読んでー」。斜面をのぼりつめたところにできた平地に座り、女の子たちがニコニコ。

 そうか、ここでかぁ…屋外での絵本読みは、風が強いと声がかき消されてしまい、屋内よりエネルギーが必要だ。さてどの絵本を読もうか迷った末に「だれがいちばん? がんばれ、ヘルマン!」(講談社)を選んだ。泥んこ大好きな黒ブタヘルマンは、他者と競うことなんか眼中にないのに、周りは彼を放っておかない。うっかり巻き込まれてしまった<だれがいちばん競争>で、わき目もふらず山を越え海辺をひた走るヘルマンの様子に子どもたちは大興奮。「がんばれヘルマン! がんばれヘルマン!」と絵本の中のおんどりといっしょに声を張り上げる。

 ところが、ふと立ち止まったヘルマンといっしょに、その声援もぴたりと止まった。そして、こんなの自分らしくないと競争をやめ砂に寝転び泥だらけになったヘルマンの「ああ しあわせ」の一言に、ほおっとため息をついた。ヘルマンの「やっぱりこれだよ」のせりふに子どもたちも「やっぱりこれだよ!」。そして、傍でのんびり草を食(は)んでいたもしゃもしゃ毛の羊をぐいと引き寄せ「な、そうだよな?」と語りかけた。 (児童文学作家・ノートルダム清心女子大教授=岡山市)

(2022年7月5日朝刊掲載)

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