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社説・コラム

『想』 湯浅克廣(ゆあさかつひろ) 心に平和のとりでを

 「向こうが憎むから、こちらが憎むでは、両方が助からない」―。緑が濃くなる木々を眺めながらの散歩の途中、道路脇の掲示板に掲げていた言葉が目に留まり、胸に刺さりました。

 世界に目を向けると、残念ながら国内や国同士で尊い命を傷つけ、奪い合う紛争や戦争が起きています。そこでは、双方が憎み合う事象が生まれ、抜き差しならない事態にまで発展してしまっています。

 今や世界は密接につながっていて、他の国から供与を受けた兵器で国内で死闘を繰り広げている国があります。ましてや国同士の戦いとなると多くの国が巻き込まれ、中立を保っている国でも平穏な市民生活に多大な影響が生じています。

 昨年末、ある被爆体験証言者の講演を聴かせていただく機会がありました。その方は、自身の被爆時の体験をなぜ語るのかについて、こう言われました。 童話作家今西祐行の言う「地獄のまん中に立っていた」体験をしたこと、原民喜が残したメモの「コハ今後生キノビテコノ有様ヲツタエヨトノ天ノ命ナランカ」という言葉が、年月を経て何度もよみがえってくるとのこと。また「現在の平和はかろうじて危機的バランスで成り立ち、その中で私たちは生きている」と、平和を堅持する重要性を語ってくださいました。

 現在、私は「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない」というユネスコ憲章の理念を踏まえながら、広島ユネスコ協会の一員として、ささやかな活動に加えさせてもらっています。その一つに「広島ユネスコ活動奨励賞」事業の展開があります。

 これは平和な世界の実現のための国際理解・国際交流などの活動や、人権・環境・教育・地域文化などに力を注ぎ、その向上、進展に貢献している広島市および近郊の学校、社会団体を顕彰する事業です。優れた活動内容を発信させていただくことで、人の心の中に平和のとりでを築く、一つの礎となることを心より願っています。(広島ユネスコ協会副会長)

(2022年6月16日セレクト朝刊掲載)

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