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社説・コラム

『想』 関洋(せきひろし) ちむどんどんと肝心

 NHKの朝の連続ドラマ「ちむどんどん」が巷(ちまた)で話題となっている。沖縄に詳しい方ならご存じのように「ちむどんどん」とは心がワクワクするさまを表す言葉だ。なんて言うと「沖縄出身ですか?」と聞かれそうだが、私は沖縄出身ではなく、ただ沖縄に通って沖縄民謡を学んできた者に過ぎない。

 さて「ちむ」は標準語の「肝」に対応している。「きも」という言葉は琉球でも大昔に使われていたが、長年の間に変化して「ちむ」となった。「ちむ」は沖縄の人々にとり大切な意味がある。良心とか真心に近い。「ちむがない」と言われたら「良心がない」ということだし、「ちむ苦(ぐ)りさん」と言うと、相手の痛みを自分の痛みのように感じることである。小さな島に暮らす人々は長い年月の間に助け合う心、人の痛みを分かち合う心を育ててきた。それが「肝心(ちむぐくる)」という言葉に収斂(しゅうれん)されている。

 もちろん日本にも昔「肝心(きもごころ)」という同じ意味の言葉があった。いつのまにか使われなくなってしまった。

 そんな人々の暮らしを支えてきた沖縄料理がドラマ「ちむどんどん」ではたくさん出てくる。昔の沖縄の人々は豚を家で育て、その命をいただきながら沖縄そばやチャンプルー、ラフテーなどなど豚を無駄なく美味(おい)しく食する料理を作ってきた。豚や野菜のタンパク質やビタミンは亜熱帯の気候を乗り切るために必要なのだ。

 実は私は宮崎県で生まれた。生家の近くに沖縄から戦争前に疎開してきた方々が住むリトルオキナワのような街があった。同級生も多かったから、よく遊び喧嘩(けんか)もした。その沖縄出身の親たちは、私をも分け隔てなくかわいがってくれた。「『肝心(ちむぐくる)』が大事だよ」とどこかで教えてもらったことがあるような記憶がある。だからテレビドラマを観(み)ているとどこか懐かしい。皆さんにもテレビで見る沖縄の言葉、料理、歌三線(さんしん)などにぜひ触れてほしい。そして沖縄の人々の「ちむぐくる」も感じて欲しいと思う。(琉球民謡協会教師)

(2022年5月27日セレクト朝刊掲載)

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