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社説・コラム

『想』 志賀淳二(しがじゅんじ) Zの選択

 1990年代後半以降に生まれた現在10代から20代までの若者は「Z世代」と呼ばれ、これからの経済を担っていく世代として注目を集めている。物心がついた頃から交流サイトSNSに親しみ「ソーシャルネーティブ」とも呼ばれるこの世代にどう番組を届けていくのか。メディア業界にとっても大きな課題だ。

 NHKでも生き方に悩むZ世代に見てもらおうと、昨年度まで「Zの選択」というドキュメンタリー番組を放送し、山口放送局も今年1月、宇部市の酒蔵で働く若者の姿を紹介した。そして、「Z」を冠したコーナーを立ち上げようと内部で議論を始めた直後、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が起きた。

 「Z」の文字はロシア国内で軍事攻撃を支持するシンボルとして広まっているという。「Z」はロシア語の「勝利のために」という言葉を表しているという説もあれば、ウクライナの「ゼレンスキー大統領」を示しているという説もある。いずれにしても「Z」をコーナー名に使うことは見合わせることにした。

 多くの市民が犠牲になり、戦争犯罪ともいえる状況を引き起こしたプーチン大統領。新型コロナウイルスを怖がるあまり、人を遠ざけ、側近からの偏った情報しか入ってこなくなったことが今回の「暴走」につながったと指摘する専門家もいる。

 正しい判断をするためには事実を把握できる正確で多角的な情報が必要だ。「おすすめ」の洪水にさらされているZ世代には十分な情報が届いているのか。人工知能(AI)に好みを判断され、好きなものばかりに囲まれがちな今のネット空間。自分では自由に選んでいるつもりでも、実は“強制的に選ばされている”のではないだろうか。

 「テレビばかり見ていないでたまには新聞を読みなさい」と𠮟られたX世代の私は今、「ユーチューブばかり見ていないでたまにはテレビを見なさい」とZ世代の息子を𠮟っている。世界が混迷を深める中、「Zの選択」が正しいものとなるようにメディア環境を整えていくことが求められている。(NHK山口放送局長=山口市)

(2022年5月21日セレクト朝刊掲載)

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