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社説・コラム

社説 野党敗北 政権との対峙 役割重い

 野党の弱さが際立つ参院選だった。単独で改選過半数という自民党の大勝を許す要因となったのは間違いない。32ある1人区で、4議席しか獲得できなかったのは象徴的であろう。前回、前々回のように候補を一本化できず、共倒れした。

 立憲民主、国民民主の両党がともに議席を減らした一方、日本維新の会は倍増し、比例代表では立憲民主を上回った。野党の分散が進み、政権交代が可能な二大政党が競い合う政治からさらに遠のいた。その意味で野党は完敗したと言えよう。

 新型コロナウイルス禍やロシアによるウクライナ侵攻、物価高が直撃し、社会保障のほころびなど将来への不安が高まる中での選挙戦だった。

 課題への具体策提示を先送りして安全運転に終始する岸田政権に対し、野党に適切な批判と次世代を見据えた政策を期待した有権者は多いはずだ。安定を求め、自民党候補に1票を投じた無党派層も多いと思われる。選択肢を示せなかった結果を猛省しなければならない。

 物価高対策で野党は消費税率の引き下げなどを訴えたが有権者に響かなかった。野党間の連携を欠いた状態では実現性が乏しいと見えたのは当然だろう。

 野党第1党の立憲民主は、無策が招いた「岸田インフレ」だと批判を展開した。しかし昨秋の衆院選で議席を減らした後に就任した泉健太代表が、通常国会では政権批判より政策提案型に論戦の軸足を移していただけに、迷走しているように映る。

 国民民主は政府予算案に賛成し、政策実現のためとして与党にすり寄った挙げ句、議席を減らした。全国政党を目指した維新は、立憲民主を批判の対象にした。別々の方向を見ていて、与党を利するだけだった。

 野党のあるべき姿をいま一度、認識すべき時ではないか。最大の役割は政権が国民の声に応える政策を実行しているかをただし、至らなければ代案を示すことにある。緊張感があってこそ政策は磨かれ、国民に利益のある政治につながる。

 最たる場が国政選挙である。政権を担える体制づくりが重要だ。それなのに、今回の参院選では枠組みを含めた政権の青写真がなかった。初めから一部の政策を実現できればいいという戦略では、今後も有権者から次期政権の選択肢になると思われるはずがない。

 衆院解散は当分ないだろう。それだけに野党は国会で岸田政権と対峙(たいじ)する役割が重くなる。国民の声を吸い上げ、それに政権が応えているか、検証を続ける必要がある。

 首相の経済政策「新しい資本主義」は具体策の提示を促す段階で、格差解消を含めた分配の充実を求めるのは野党の本分だ。憲法改正や安全保障政策も重要な局面を迎える。

 野党の分断が深まった以上、従来のような分かりやすい与党対野党の構図にはなりにくい。それでも野党の役割は変わるまい。政権との向き合い方や目指す社会をはっきりと示し、政権に論戦を挑むことである。

 選挙期間中、閣僚が街頭演説で「野党の話は、政府は何一つ聞かない」と発言した。少数意見を踏まえるのは民主主義の原則である。二度と言わせないよう、岸田政権を厳しくチェックし存在感を示してもらいたい。

(2022年7月12日朝刊掲載)

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