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社説・コラム

天風録 『人生100年時代のお手本』

 海の波が刻々と変わるように、平穏な年があれば激動が続く年もある。1918年は間違いなく大荒れの部類だろう。第1次大戦で敗れたドイツとオーストリアで帝国が崩壊、スペイン風邪が突然現れ、世界を席巻する▲日本ではコメ騒動が起き、社会不安が増した。そんな年に生まれた人の中に、人生100年時代のお手本となるおじいさんがいる。長崎市に住む中野清香さん。103歳で、漢字検定合格者の最年長記録を塗り替えた▲検定のうち上から3番目の2級で、合格率は例年2割台の難関だ。おととしの誕生日、子どもから問題集を贈られたのが挑戦のきっかけになった。勉強中、いいかげんな漢字を今まで書いていたことに気付き、反省したそうだ。体力は年々衰えるが、脳の働きは変わらないと力強い▲戦時中に派遣されたニューギニアで苦難を味わった。連合軍の猛攻の前に補給が途絶え、弾薬はおろか、食料も事欠く羽目に陥った。生きて帰国した兵士は1割程度。今回の栄誉も、亡き戦友たちに報告したいという▲荒波を幾つも越え、さらに先を見据える。かすみがちな目をいたわりながら、難問に挑み続けたい、と。飽くなき向上心に頭が下がる。

(2022年7月13日朝刊掲載)

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