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連載・特集

緑地帯 村中李衣 絵本の読みあい あっちそっち⑦

 画家のこしだミカさんから、「ねえねえりえさん、ちょっとええですかぁ?」と8月出版予定の絵本のことで電話がかかってきた。

 ミカさん渾身(こんしん)の作品で、身勝手な人間たちが汚してしまった海の水がナマコのばあちゃんの体の中を通りお尻から吐き出されることで浄化されていく。ところが科学者たちは会議を開き、こんな巨大なナマコは化け物だからほっておいたら大問題。取り除くべきだと主張し始める。

 「ほんでなぁ…」と絵本のテキストを読み続けるミカ画伯に「ちょいまち。『ほっておいたら』は、ミカちゃんみたいな関西弁で聴いたらわかるけど、文字で見たらなんか海の底を掘ってるみたいに思われるかもよ」。私の口出しに「へぇ~そうかなぁ」とミカさん。

 それからは、表記に弱いふたりして「ほうる?」「ほおる?」と頭をひねる。そのうちまた「ちょいまち! そもそも、ナマコのばあちゃんを放っておくのが大問題なんと違って、巨大なナマコの存在自体が大問題なんやないん?」と、違うことを言い出す私。「ふうん、そうかなぁ。そうかもしれんなぁ」とまたまた考え込むミカさん。「そんなら、『ほっておいたら』は、ほっておかずに、ほかして(片付けて)しもたらええやん」ということで一件落着。絵本作家さんは絵で勝負するから、文章のこだわりは少ない人も多い。

 そんな中で一語一語を表現世界の子どものように生み出そうとする姿勢に頭が下がる。で、最初の質問は? 「あぁそうやった」と話はまた続いていくのだった。 (児童文学作家・ノートルダム清心女子大教授=岡山市)

(2022年7月12日朝刊掲載)

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