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社説・コラム

天風録 『イサム・ノグチが架けた橋』

 街中にある手すりや斜面に挑み、技を披露し合ったのが競技としての始まり。スケートボードがストリートスポーツと呼ばれるゆえんである。13歳で東京五輪女子ストリートの頂点に立った西矢椛(もみじ)選手らの活躍は記憶に新しい。モトクロスバイク(BMX)もそう▲地上から2・3メートル。そり具合が挑戦心をかき立てるのか。広島市の平和大通りに架かる西平和大橋で、欄干のモニュメントをBMXで駆け上がり、ジャンプを繰り返す若者らの姿を、先日の本紙中国わいど面が伝えた▲東に架かる平和大橋と対をなす。モニュメントは魂を運ぶ船のへさきを、平和大橋のそれは生命を表す太陽をかたどる。彫刻家のイサム・ノグチがデザインし、被爆の7年後に完成した▲日本人の父と米国人の母の間に生まれた芸術家として、復興の願いを込めた。平和大通りが国境を越えた「人間の空間」に育つことを望んだ。そんな背景も車輪に踏まれたようで残念だ▲スケボーの東京五輪女子パークではメダル圏内にいた岡本碧優(みすぐ)選手が最後に大技で勝負し転倒。悔し涙の彼女を各国のライバルが肩車して挑戦をたたえた。そんなストリート仲間の精神はノグチの理想と重なるはずである。

(2022年7月14日朝刊掲載)

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