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2022参院選を終えて <下> 改憲意欲 首相の真意は

核なき世界と矛盾も

 参院選の開票が進む10日夜、自民党本部の開票センター。当選確実となった党公認候補者のボードにバラを付ける岸田文雄首相の表情は硬い。2日前に安倍晋三元首相が応援演説中、銃撃されて死去。自民単独で過半数の議席を得た高揚感は会場になかった。

 とはいえ、首相が昨年10月の衆院選に続き国政選挙の連勝を果たしたのも事実だ。連立を組む公明党に加え、日本維新の会など憲法改正に前向きな勢力は、参院でも改憲発議に必要な3分の2議席を保った。

 首相は早速、11日の党本部での記者会見で「できる限り早く発議に至る取り組みを進めていく」と明言。憲法9条への自衛隊明記や緊急事態条項の創設、合区解消、教育の充実の自民改憲案4項目を「いずれも現代的な課題だ」と訴え、国会論議の加速と合わせて対話集会の開催を通じ「国民の理解を得る活動に積極的に取り組む」と強調した。

「思いを継ぐ」

 憲法9条の平和主義を重んじてきた自民党の伝統派閥「宏池会」の9代目会長を務める岸田首相は、もとは改憲に慎重だった。党政調会長時代には「(9条改正を考えない姿勢は)変わっていない」などと発言。党内の保守強硬派とは路線を異とした。安倍氏死去を受け「元総理の思いを受け継ぎ、難題に取り組む」と意欲を示すことになる。

 その真意はいかに―。首相周辺の一人は「改憲を成し遂げたい思いはあるが、何がなんでもと考えているわけではない。今は外交や経済政策に並々ならぬ熱意がある」と分析する。

 首相に近いベテラン議員は来年5月に広島市で開く先進7カ国首脳会議(G7サミット)との兼ね合いを指摘する。被爆地広島選出の首相として「核兵器のない世界」に向けた取り組みを進める以上、「憲法9条改正を同時に進めるのは国際社会から平和主義を骨抜きにするとの誤解を招きかねない。改憲は慎重に進めるだろう」との見方だ。

 外交・安全保障を巡ってはロシアのウクライナ侵攻を受け「防衛の抜本強化」を唱え、日米同盟を深めると繰り返す。年末に改定を控える「国家安全保障戦略」でもその姿勢を鮮明にするとみられるが、日本の防衛強化は、米国の「核の傘」と一体で語られる。ここでも「核なき世界」との矛盾を指摘されている。

基盤固め焦点

 足元では、長期化するウクライナ情勢や物価高騰に加え、ロシア極東サハリンで原油や液化天然ガス(LNG)を生産する「サハリン2」の行方などエネルギーの安定調達にも暗雲が漂う。「第7波」を迎えたとされる新型コロナウイルス対策も喫緊の課題だ。

 「聞く力」を重んじる政権運営で内閣支持率も上がってきた。参院選勝利で長期政権も視野に入れた首相だが、岸田派は党内第4派閥。最大派閥を率いた安倍氏の死去で党内の主導権争いが激しさを増すとの声もある。「戦後最大級の難局」への対応に専念するには、8月下旬にも着手する内閣改造・党役員人事で基盤固めを図れるかが焦点となる。(樋口浩二、口元惇矢)

(2022年7月14日朝刊掲載)

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