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社説・コラム

『記者縦横』 禁止条約 育てる行動を

■報道センター社会担当 小林可奈

 「平和のひな鳥」。被爆者の田中稔子さん(83)=広島市東区=は、核兵器禁止条約をこう例える。昨年1月に発効したばかりのまだ幼い条約は、被爆者の願いである核兵器の製造や保有など全面禁止をうたう。その第1回締約国会議が6月21~23日、オーストリア・ウィーンで開かれた。

 会議には核兵器を持たない約80カ国の代表や世界中の市民が参加。会場は熱気にあふれていた。ただ、そこに被爆地選出の首相を擁する日本政府代表の姿はなかった。同20日に同じ場所であった「核兵器の非人道性に関する国際会議」に出席したばかりなのに。

 国際会議後、外務省の会見で、締約国会議に参加を求めている被爆者の声を受け止めているか問うた。軍備管理軍縮課長は「被爆者の声を受け止めるのは政府の姿勢」と述べる一方、「核兵器保有国が一カ国も参加しない」と締約国会議不参加の姿勢を固持した。

 ロシアのウクライナ侵攻を受け、核兵器に頼る動きが世界で広がる。日本政府も例外ではなく、米国が核兵器などで防衛に関与する「拡大抑止」の強化を打ち出した。政府が繰り返して掲げる目標「核兵器のない世界」が空虚に響く。

 田中さんは言う。「ひな鳥たちは前進を止めません。仲間と共に、必死の覚悟で飛び立ちます」。被爆者や小国が力を合わせて生んだ禁止条約を大きく育てるため、被爆国の力は小さくない。「被爆者の声を受け止める」。言葉だけでなく行動で示してほしい。

(2022年7月15日朝刊掲載)

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