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「黒い雨」援護策 不公平感 白内障は「治療済み」なら健康手当無支給 制度改正求める声

 広島原爆の投下後に降った放射性物質を含む「黒い雨」の被害者救済で、国が4月に運用を始めた新たな被爆者認定基準を巡り、援護に差が出ている。疾病要件のうち白内障の手術歴に該当して被爆者と認められたケースで、被爆者健康手帳は交付されるが、健康管理手当は支給されないためだ。不公平感を生んでいるとして、被害者側は疾病要件を認定基準から外すよう求めている。(松本輝)

 新基準では、被害者の証言や当時の居住地から黒い雨に遭ったと否定できず、がんや肝硬変、白内障など11疾病のいずれかにかかっていれば、被爆者健康手帳を交付する。うち白内障は現在は症状がなくても、手術歴があれば認定する。

 一方で、直接被爆や入市被爆を含む全被爆者が対象となる健康管理手当は、同じ11疾病にかかれば、毎月3万4900円が支払われる。ただ、白内障の手術歴は手当の支給要件にない。広島県と広島市によると、新基準で6月末までに手帳を交付した932人中23人が手当の対象外だった。

 新基準前、黒い雨に遭った人が被爆者と認められるには、援護対象区域内で雨を浴び、11疾病の診断を受ける必要があった。昨年7月、区域外の原告84人を被爆者と認めた広島高裁判決を受け、厚生労働省、県、市などは、白内障の手術歴で認定された原告がいる点を考慮し、手術歴を新基準に加えた経緯がある。

 厚労省原子爆弾被爆者援護対策室は「治療済みなら手当は支給しない。従来の被爆者と同じ扱いをしている」とする。

 ただ区域外の黒い雨被害者は長年、健康被害を訴えてきた。国が早く被爆者と認めていれば、白内障の発症時に手当を受け取れた可能性がある。五日市町(現広島市佐伯区)で雨に遭った森脇春子さん(81)=佐伯区=は一昨年に白内障の手術をし、今年3月に市へ手帳と手当の申請をした。まだ連絡はなく「手当がもらえるか不安。同じ黒い雨の被爆者なのになぜ援護に差が出るのか」と訴える。

 広島弁護士会館(中区)で14日に記者会見した、黒い雨被害者を支援する会の竹森雅泰弁護士は「黒い雨被害者の被爆者認定に、疾病要件を加えたために生じたいびつさだ」と批判。国に制度改正を求めた。会は18日午前10時~正午に海田公民館(海田町)で、午後2~4時に弁護士会館で無料相談会を開く。県被団協(佐久間邦彦理事長)☎082(503)2750。

黒い雨
 米国による広島への原爆投下直後に降った放射性物質や火災によるすすを含む雨。国は1976年、爆心地から広島市北西部にかけての長さ約19キロ、幅約11キロのエリアを援護対象区域に指定。区域内で雨を浴びた住民には無料で健康診断をし、がんや白内障など11疾病のいずれかを発症した人に被爆者健康手帳を交付し、医療費を原則無料にするなどの援護策を講じてきた。区域外で雨に遭った原告84人全員を被爆者と認めた昨年7月の広島高裁判決を受け、国は新基準を定めた。

(2022年7月15日朝刊掲載)

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