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社説・コラム

核禁条約会議に参加の豪 エバンス元外相に聞く 実効性高める貢献する

核兵器 存在だけでリスク

 広島県などが主催した国際会議に出席するため、広島市を訪れたオーストラリアのギャレス・エバンス元外相が中国新聞の単独インタビューに応じた。同国は日本と同じく米国による「核の傘」の下にありながら、6月にあった核兵器禁止条約の第1回締約国会議にオブザーバー参加した。決断の理由や核軍縮政策を聞いた。(宮野史康)

  ―オーストラリアは5月の総選挙で9年ぶりに労働党の政権となり、締約国会議に参加しました。どのような判断からですか。
 新政権は核兵器を巡る軍縮、軍備管理、リスク削減、不拡散に強い意欲を持っている。労働党は野党だった2018年、現首相のアルバニージー氏の提案で禁止条約批准を公約した。

 批准の条件として、核兵器が廃絶されているかどうかを確認する方法について、技術的な課題を解決する必要がある。廃絶を支持する側から見ても条約には改善すべき点がある。だからオーストラリアは参加した。条約を理念の表明にとどめず実効性を高める貢献をする。

  ―オブザーバー参加しなかった日本政府の対応をどう見ていますか。
 日本も同じ目的を持って参加すべきだと思う。広島県選出の岸田文雄首相が今後、指導力を発揮するのを期待している。独立国なのだから、米国の顔色をうかがう必要はない。

  ―オーストラリアは日本と同じく安全保障を米国の核兵器に依存しています。
 米国の核の傘が必要だとは思えない。世界は危険性と不確実性を増しているが、私たちには米国の核兵器ではなく、通常兵器による拡大抑止と同盟関係が重要だ。見通せる将来において米国の通常兵器はいかなる脅威にも対応できる。

 核戦争に勝者はいない。核兵器の使用はどんな代償を払ってでも、避けなくてはいけない。核兵器は存在するだけでシステムの故障、人為的なミス、誤算による使用というリスクが付きまとう。こうしたリスクは受け入れられない。

  ―オーストラリアは米国、英国との安全保障の枠組みを通じ原子力潜水艦の導入を計画しています。非核保有国での導入は異例で、核拡散防止条約(NPT)体制の「抜け穴」との懸念が出ていますね。
 オーストラリアの原子力潜水艦の計画は純粋に防衛目的だ。広大な海岸線を抱え、長距離の潜航ができる潜水艦が必要だ。核不拡散体制には影響を及ぼさないと考えている。潜水艦に積んだ高濃縮ウランは30年超の潜水艦の寿命の間、交換されることはない。

  ―国連の持続可能な開発目標(SDGs)に続く目標に核兵器廃絶を入れる広島県の活動の評価は。
 核兵器が地球の生命の存続を脅かしている限り、持続可能な開発は実現できない。湯崎英彦知事の熱意が実現するよう願っている。

 ≪略歴≫1944年、オーストラリア・メルボルン生まれ。司法長官などを経て88~96年、外相を務めた。労働党副党首や「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)」の共同議長、オーストラリア国立大学長も歴任した。現在は同大特別名誉教授。英オックスフォード大で修士号取得。メルボルン在住。77歳。

(2022年7月16日朝刊掲載)

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