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社説・コラム

天風録 『山本コウタローさんのメッセージ』

 30年前開所した原爆養護ホーム・倉掛のぞみ園には毎夏、にぎやかな一日があった。歌手たちが訪れ、ヒット曲を披露した。「走れコウタロー」を幕開けに「岬めぐり」や「神田川」も。お年寄りは笑顔で手拍子して口ずさんでいた▲山本コウタローさんが亡くなった。東京生まれだが広島と結んだ縁は深い。8月6日前後には原爆養護ホームで南こうせつさんらと園でミニコンサートを開いてきた。ファンのほか被爆者も歌声をしのんでいるだろう▲ヒロシマとの関わりは1986年の「平和祈念コンサート」から。被爆者の話を聞こうと訪ねた舟入むつみ園で衝撃を受ける。ベッド6床が限度と思われる部屋に10床もあったと、著書「ぼくのピース・メッセージ」に記す▲入所待ちの被爆者も多いと聞いて芽生えた問題意識が原動力になったようだ。南さんらと翌年以降も10年にわたり毎夏、ピースコンサートを続けた。収益約2億円を広島市に寄付し、倉掛のぞみ園の建設につながった▲核の使用を口にする大国の指導者がいる今、何をすべきか。「平和がいいに決まってる!」がコンサートの合言葉だった。レコードを引っ張り出して山本さんの歌に触れてみたい。

(2022年7月17日朝刊掲載)

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