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社説・コラム

天風録 『万博まで1000日』

 さいとう・たかをさんの長寿漫画「ゴルゴ13」は没後も続くが、昔の作品でこんなイベントも描いていた。1985年に筑波研究学園都市で開かれた科学万博。ベンチャー企業の新技術を巡り、当時のソ連が陰謀を巡らせる▲荒唐無稽だがその中身が面白い。核分裂を制御し、核兵器を無力化できる装置―。自国の存亡に関わる、と工作員が出展を妨害し、広告代理店の社員がゴルゴの力を借りて実現へ走る。冷戦時代の空気を映す筋立てだ▲世界の核情勢が悪化する中、そんな技術が本当にあったらと思いたくなる。そういえば170年を超す世界の万博の歴史を見れば出展時は夢物語に近い新技術があった。エレベーター、蓄音機、電話、動く歩道などだ▲大阪・関西万博はどうだろう。きょう「開幕1000日前」の行事がある。「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに空飛ぶ車や人気アニメ、ガンダムのパビリオンなど話題はあるが、盛り上がりはいまひとつか▲1970年の大阪万博では「月の石」などに長い列ができた。驚きと明るい未来への期待感が成功の鍵だろう。核の無力化は無理としても世界の平和に結びつく画期的な技術は、いくらでも見たい。

(2022年7月18日朝刊掲載)

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