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社説・コラム

『潮流』 安保だけでいいか

■岩国総局長 岩崎秀史

 午前6時半過ぎ、ごう音で目が覚め、風呂上がりの午後10時ごろにも爆音は響く。そんな日が珍しくない。米軍岩国基地(岩国市)の滑走路から約3キロ離れた職場兼住居で暮らす日常である。基地の周辺では戦闘機の離陸時、会話やテレビ視聴もままならないと聞く。

 約60機の空母艦載機が基地から飛び去り、騒音がいくぶん和らいだと思っていた6月。今度は米国から空軍のステルス戦闘機30機が飛来した。中国や北朝鮮が軍事活動を活発化させる中、多数の外来機が異例の訓練を繰り返している。約40キロ北の広島市中心部でも夜間や日中に米軍機とみられる飛行の目撃が相次ぎ、爆音に驚いた人も多いことだろう。

 岩国市は、相次ぐ外来機の飛来などで新たな負担が増えていると認識する。中国新聞社が今月の参院選に合わせて実施した世論調査でも、基地に対する有権者の危機感が見て取れた。空母艦載機の移転後に最も重視する政策を山口県内で尋ねたところ、騒音・安全対策などの安全安心の確保が6割で最も多く、地域振興策は1割に過ぎない。岩国市など県東部に限っても傾向は変わらない。

 ロシアのウクライナ侵攻を受け、参院選で安全保障は大きな争点の一つとなった。与野党を問わず防衛費の大幅な増額や敵基地攻撃能力の保持を訴える公約が目立った。「自分たちで国を守らないと、どうなるか、ウクライナを見ていたら分かる」。不安をあおるような論調も聞こえてきた。

 だが、5年近い外相経験のある岸田文雄首相の得意分野とされる外交戦略について、論戦はほとんど交わされなかった。軍備を強化するだけでは、互いに軍拡競争や挑発を繰り返し、突発的な軍事衝突を招きかねない。そんな安全保障のジレンマに陥る恐れもある。爆音が響く空の下、残念でならない。

(2022年7月19日朝刊掲載)

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