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原民喜の連作詩基にした合唱曲「原爆小景」 広島で17年ぶり全曲披露

歌い継ぐ東混 来月3日公演

被爆2世 山下さん指揮

 被爆作家原民喜の連作詩から生まれた合唱曲「原爆小景」を歌い継ぐ東京混声合唱団(東混)が8月3日、広島市中区のJMSアステールプラザで公演する。戦後を代表する作曲家の一人、林光さん(1931~2012年)がライフワークとして取り組んだ傑作で、東混が広島で全曲披露するのは17年ぶり。広島市出身の指揮者で被爆2世の山下一史さんがタクトを担う。(西村文)

 「原爆小景」は全4部からなる無伴奏の混声合唱組曲。「水ヲ下サイ アア 水ヲ下サイ」「死ンダハウガ マシデ」…。被爆者の悲痛な叫びを歌声で表現する。1958年、民喜の詩に感銘を受けた当時27歳の林さんが、東混の委嘱で作曲を開始。同年に1部「水ヲ下サイ」、71年に2部「日ノ暮レチカク」と3部「夜」を発表後、30年を経て4部「永遠のみどり」を完成させた。

 東混は59年7月、前年に東京で初演したばかりだった1部「水ヲ下サイ」を広島公演で披露。客席には被爆者も多く、「当時の情景が目に浮かんで、たまりません」「いや、どんどん演奏すべきだ」など賛否両論が巻き起こったと、当時の中国新聞は伝える。

 東混は80年から毎夏、「原爆小景」をメインに歌う演奏会「八月のまつり」を東京で開催してきた。95年の被爆50年、2005年の被爆60年の節目には、林さんが自ら指揮して広島公演を行った。

 「声の力で被爆者の感情をダイレクトに伝える傑作。指揮をして、林先生の思いの強さを感じた」。18、20年に東京で「八月のまつり」を指揮した山下さんは語る。東混から初めて出演依頼があった際、被爆の後遺症に苦しみながら自分を産んでくれた母の博子さん(14年に87歳で死去)を思ったという。「音楽を通じて被爆体験の継承に力を尽くしたい」と決意を新たにする。

 広島公演は「原爆小景」のほか、寺嶋陸也さんのピアノ伴奏で林さん編曲「日本抒情歌曲集」などを披露する。  午後7時開演。S席4千円、A席3千円、学生席1500円。電話予約☎(0120)240540(平日午前10時~午後6時)。東混事務局☎03(3200)9755。

はやし・ひかる
 1931年、東京生まれ。小学生の頃に尾高尚忠に師事し、作曲を始めた。東京芸術大中退。合唱曲をはじめ、オペラ、映画、テレビドラマの音楽など多分野で活躍。映画音楽では「第五福竜丸」や「裸の島」など、広島市出身の新藤兼人監督の作品を数多く手がけた。96年紫綬褒章。2012年に80歳で死去。

東京混声合唱団
 合唱指揮者の田中信昭が1956年、東京芸術大の卒業生たちを中心に設立した日本を代表するプロ合唱団。現音楽監督は山田和樹。東京・大阪での定期演奏会、オーケストラとの協演など年間約150回の舞台に立つ。

(2022年7月20日朝刊掲載)

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