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社説・コラム

社説 韓国外相の来日 懸案解決へ対話加速を

 韓国の朴振(パク・チン)外相が来日し、林芳正外相に続き、岸田文雄首相とも短時間ながら会談した。

 首相と韓国外相との会談は4年ぶり。意思疎通すら十分できず、「史上最悪」と言われるほど両国関係は冷え込んでいた。

 ただ、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が5月に就任して以来、風向きは変わりつつある。関係改善に意欲を見せているからだ。今回も「両国関係改善の流れがより加速化すると期待している」とのメッセージを託し、岸田首相に伝えた。両国が対話を加速するきっかけにしなければならない。

 とはいえ、懸案は山積している。解決が急がれるのが「徴用工」問題である。植民地時代に日本で強制労働させられた元徴用工が日本企業に損害賠償を求めた訴訟で、韓国最高裁が2018年、賠償を命じた判決が発端となった。戦後補償を巡る韓国での訴訟で、日本企業への賠償命令が初めて確定した。

 日本は、1965年の日韓請求権協定で、個人請求権の問題は「完全かつ最終的に」解決されたとの立場を貫いている。2005年には、韓国政府も元徴用工らの個人補償義務を負うのは韓国政府だと確認していた。

 ところが、韓国最高裁は「個人請求権は協定では消滅していない」と判断。当時の文在寅(ムン・ジェイン)政権も司法判断には介入できないとの考えを示すなど、両国の主張は大きく隔たっていた。

 差し押さえられた日本企業の資産が現金化される「期限」が今夏にも迫る。もし現金化されれば、報復措置に踏み切る可能性がある、と日本政府は態度を硬化させている。

 事態が切迫する中、朴外相は資産が現金化される前に、望ましい解決策を出せるよう努力すると岸田首相に伝えた。

 韓国政府が責任を持って事態を収拾すべきだとの日本政府の主張は、もっともだろう。ただ傍観は許されない。朴外相も「日本側の誠意ある呼応を期待する」と述べている。解決に向け、日本は尹政権の努力を積極的に後押しすべきだ。併せて、歴史問題に真剣に向き合うことも忘れてはならない。

 「慰安婦」の問題も、文政権下でこじれてしまった。解決を図るため、日韓両国が15年に発表した合意を事実上、白紙にしたからだ。

 この点でも、朴外相は、合意を尊重する尹政権の姿勢を改めて強調した。元慰安婦や家族は高齢化している。問題解決を急がなければならない。

 関係悪化を放置すれば、両国だけの問題では済まなくなる。北東アジアでは、中国が軍事力を増大させ続け、北朝鮮は核兵器・ミサイル開発を繰り返す。こうした動きに対応するには、日韓に米国を加えた結束が欠かせない。地域の平和と安定を守ることにもつながるはずだ。

 そのため、日本としても可能な限り、韓国に歩み寄る必要がある。例えば半導体材料の輸出規制。徴用工問題への報復ではなく、「安全保障を目的とした輸出管理見直し」というのが政府見解だった。ならば、日米韓の連携を深めるためにも、譲歩の余地があるのではないか。

 懸案解決に向け、早期の首脳会談も模索したい。互いに自由と民主主義の価値を重視する国であり、意思疎通を密にしておくべき隣国でもある。改めて確認しなければならない。

(2022年7月21日朝刊掲載)

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