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児童文学 子ども目線で転換 那須正幹さん一周忌 東京で「しのぶ会」 「笑顔の奥に激しく熱い感性」

 広島市西区出身の児童文学作家・那須正幹さんが79歳で他界してから、22日で一周忌を迎える。14日に東京で「しのぶ会」が開かれ、親交のあった作家や画家、編集者たち約100人が集まった。「ズッコケ三人組」シリーズをはじめ、児童文学の金字塔を打ち立てた那須さんの足跡をたたえた。(桑島美帆)

 いつも笑顔で子どもたちに寄り添った那須さん。祭壇は1978年に始まったズッコケシリーズの第1巻をイメージし、黄やオレンジ色の花で埋め尽くされた。作品に登場するハチベエ、ハカセ、モーちゃんたちのパネルも並んだ。

 日本児童文学者協会の藤田のぼる理事長(72)は開会の辞で那須さんの功績に触れ、戦前からの作家が主流だった児童文学界に、子どもの目線に立った新しい世界を切り開いたと強調。「孤軍奮闘しながら児童文学の転換を担われた。その存在感はすごいものがある」と力を込めた。

 ズッコケシリーズは2004年刊行の50巻まで続き、累計部数2500万を超えるベストセラーとなった。ポプラ社の担当編集者だった井澤みよ子さんによると、那須さんは締め切りを必ず守り、手直しのない完全な原稿を寄せた。「編集者に優しい。素晴らしい作家の見本のような人だった」と懐かしんだ。

 光市出身の俳優原田大二郎さん(78)は、釣りを楽しんだ思い出を披露。ズッコケシリーズを映画化した98年公開作品に出演してから20年以上親交を結び、「まーさん」「大ちゃん」と呼び合った。「にかっとした優しい笑顔の奥に激しく熱い感性を感じた」と人柄をしのんだ。児童文学作家の指田和さん(54)は「創作には情熱だけでなく冷静さも合わさっていた」と話し、そんな姿勢を見習おうと那須さんの本をそばに置いて執筆していると明かした。

 那須さんは3歳の時に現在の西区己斐本町の自宅で被爆した。被爆50年の95年に出版した「絵で読む 広島の原爆」は、戦前から現代までの広島の街の変遷を描く。緻密な作画を手がけた絵本作家西村繁男さん(75)は「原爆を客観的に捉えた作品にしようと話し合った。少なくなる語り手の代わりをこの本が担ってほしい」と話す。

 「かいけつゾロリ」シリーズで知られる原ゆたかさん(69)も駆け付けた。「ずっと売れ続ける本を出した那須さんは児童書界の憧れの存在」とした上で、「昭和の子どもたちを描いたドラマとして読み継がれるだろう」とみる。

 会場では生前の那須さんが「このつらい浮世で、2時間でも子どもたちが主人公と駆け回ってくれれば」と自著について語る音声も流れた。妻の美佐子さん(72)は「たくさんの方と良い交流ができた。これからも忘れずに本を読んでやってください」とあいさつした。ポプラ社は11月、那須作品を現代の視点で読み解く「那須正幹の大研究」を出版する。

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思い出や作品語り合う 広島でも追悼

 那須正幹さんの出身地の広島市でも12日、しのぶ会があった。地元の児童文学作家や平和活動家たち約10人が中区の市こども図書館に集まり、那須さんとの思い出や作品の印象などを語り合った。

 市民グループ「広島市よい本をすすめる母の会」の柴田幸子代表(90)は、1998年に受け取った那須さんの直筆はがきを持参。「世界中の人に、原爆のことや広島長崎のことを知ってもらいたい」「日本が被爆国なら、地球は被爆星なんですから」と書かれたメッセージを読み上げた。

(2022年7月22日朝刊掲載)

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