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母が語る韓国・済州島の悲劇 ヤンヨンヒ監督「スープとイデオロギー」

 在日コリアン2世のヤンヨンヒ監督(57)の新作「スープとイデオロギー」が、広島市西区の横川シネマで上映されている。1948年に韓国・済州島で起きた「済州4・3事件」を巡り、母親の証言をたどったドキュメンタリーだ。

 事件は、武装蜂起の鎮圧を名目に軍や警察が54年までに約3万人を殺害したとされる。韓国では長い間正面から語られなかった。作品は、年老いた母親が初めて語り始めた済州島での壮絶な体験を記録。アルツハイマー病を患う母親から消えていく記憶をすくいとろうと、ヤン監督は母を済州島へ連れていくことを決意する。

 作品には、丸鶏を長時間煮込んだ母親特製のスープが、たびたび登場する。ヤン監督のパートナーである日本人男性が初訪問した際も、母親はこのスープで優しくもてなす。「思想や価値観の違いで人は殺し合うことがある」とヤン監督。「食卓をともに囲む、そんな個人の営み一つで分断は乗り越えられると伝えたい」とほほ笑んだ。

 8月4日まで上映。尾道市のシネマ尾道では7月29日まで上映されている。(木原由維)

(2022年7月26日朝刊掲載)

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