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社説・コラム

『今を読む』 ひろしまNPOセンター事務局長 松原裕樹(まつばらひろき) 2023広島サミット

市民社会も対話・提言の出番

 「どうやって直すのか分からないものを壊し続けるのは、もうやめてください」

 今から30年前、ブラジルのリオデジャネイロで開かれた地球サミットで、当時12歳のセバン・スズキさんが各国の政府代表に呼びかけた。

 来年5月に開催される広島サミットに、もし私たちの誰かが登壇できるとして、誰のために、どんな声を上げるだろうか。

 NPO法人に携わる私は、環境や教育、防災、福祉、子育て、観光、まちづくりといった地域課題に取り組んできた。中国地方で活動し、全国と連携する機会も多い。

 そんな縁で知り合った東京の一人から半年前、思いがけない電話があった。先進7カ国首脳会議(G7サミット)開催地が広島市になれば、市民社会の声を一緒に届けないか―というのである。

 G7サミットは、米国や英国、フランス、ドイツ、イタリア、カナダ、日本の7カ国が中心となり、国際社会問題について話し合う場である。

 ところが電話の主によると、サミットの際に政府だけでなく、世界中の市民社会組織が開催国に集まり、G7首脳との対話を通じ、提言する仕組みがあるらしい。

 今年のG7サミットがあったドイツでも直前に市民社会組織の代表者が集い、<人道支援と紛争><経済正義と変革><気候・環境の正義>など5項目の政策提言書をまとめた。「C7サミット」を5月に催し、その提言書をG7サミット議長国ドイツのショルツ首相に手渡している。

 「C」といえば、広島東洋カープを思い出すのが広島人のお決まりだが、こちらの「C」は「Civil Society(市民社会)」の頭文字である。

 G7サミットの広島開催が決まり、中国新聞の紙面でも機運の高まりがうかがえる。世界が注目するこの機会は、経済面を含む波及効果への期待も大きい。加えて、先日の安倍晋三元首相襲撃事件の影響から、迎える側としての緊張感もより一層高まってくるに違いない。

 何より、被爆78年を迎える広島の地で開催される意義は計り知れない。広島で生まれ育った私としては、核兵器の廃絶に向けた契機となることを強く望んでいる。

 一方で、地球上には複雑かつ難解な問題があふれ返っている。貧困に格差、公衆衛生上の危機にひんする保健システム、地球温暖化に伴う気候変動、紛争、エネルギーと安全保障、ジェンダー平等、生物多様性の保全、子どもの権利や教育…と数え切れない。

 世界のどこかで起こっているニュースではない。私たちの暮らしの中で起こっていることであり、解決の糸口は私たち市民の言動の中にある。

 G7広島サミットで諸問題を解決する政策が合意され、地球全体の未来のためになる指針が決まる―。そんな機運や機会を促すのが、開催地の市民として一番のおもてなしではないだろうか。

 今年5月に日本国内のNPOやNGO、個人が集まり、G7各国政府に働きかけを行うため、手をつなぐ組織「G7市民社会コアリション2023」を発足させた。その共同代表を私も務める。今後、国内外と連携し、C7をリードしていく活動を進める。

 また、所属する「ひろしまNPOセンター」でも、世界と日本、広島の市民社会をつなぐ橋渡し役として、広島の皆さんとG7サミットに声を届ける機会をつくりたい。

 世界中の市民が広島に集い、「核兵器のない持続可能な社会」づくりのための市民社会サミット開催を目指すため、各界各層からの賛同や協力をお願いしたい。

 自治体や企業に勤めている人々、農林漁業者、商業者、教員、研究者、医療従事者、マスコミ関係者、スポーツ選手、芸能人、学生、子どもたち、みんな一人一人が市民である。

 何年かに1度の選挙で1票を投じることも大事だが、実は政治に参加する機会は日常の中にも数々ある。ありたい未来社会を実現するため、国や地域、立場、世代の垣根を越え、市民社会の声をG7広島サミットに届けたい。

 82年広島市安芸区生まれ。05年広島工業大環境学部卒。会社、米国NGO(非政府組織)勤務を経て12年特定非営利活動法人ひろしまNPOセンター入職。17年から現職。内閣府認定の地域活性化伝道師。広島市西区在住。

(2022年7月23日朝刊掲載)

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