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社説・コラム

社説 広島サミットまで300日 核廃絶につなぐ成果を

 被爆地から、核なき世界を目指す首脳宣言が発信されると期待したい。広島市で来年5月に開かれる先進7カ国首脳会議(G7サミット)はきょう、開幕まで300日となった。

 米国、英国、フランスの核兵器保有国を含めた首脳を迎える最大の意義は言うまでもない。被爆の実態を知り、核抑止論に頼った安全保障体制を変える一歩にしてほしいことに尽きる。

 そろって原爆慰霊碑に花を手向け、原爆資料館を見学する。被爆者の証言を聞く。討議に先立って機会を設け、核兵器の非人道性を直視するべきである。

 ウクライナ侵攻でロシアのプーチン大統領が核兵器使用をちらつかせ、世界に衝撃を与えた。核兵器と共存するか、険しい道でもなくす努力をするか。どちらが取るべき道か、世界は思い知ったはずである。

 サミットは世界経済や環境問題などあらゆるテーマを議論する場だ。だが岸田文雄首相が強い思いで広島開催を決めた意義は、被爆地で核軍縮を議論することにある。議長役のリーダーシップを求めたい。

 ただ簡単ではない。米ロはそれぞれ核弾頭を5千発以上持ち、台頭してきた中国を交え高性能化・小型化を競う軍拡に突き進む。アジアや中東でも保有は広がる。ウクライナ侵攻は「核の同盟」の北大西洋条約機構(NATO)のエリアを広げる結果をもたらした。依然として核抑止論が幅を利かせる。

 国内に目を向けると、あろうことかウクライナ侵攻に便乗して、自民党や日本維新の会の国会議員らが米国の核兵器を共同運用する「核共有」政策まで主張した。「持たず、つくらず、持ち込ませず」の非核三原則に明らかに反し、国際的に誤ったメッセージになりかねない。

 プーチン氏の脅しは逆に、理性のない為政者がいれば核抑止論が成り立たないことを知らしめた。一発でも使われれば核戦争に発展し、自国の防衛どころか人類を破滅させかねない。だからこそ広島サミットは核抑止論からの脱却を促し、核軍縮への具体的な道筋を検討する場にしなければならない。

 岸田首相は、繰り返し「武力侵略も核兵器による脅かしも、国際秩序転覆の試みも断固として拒否するG7の意思を、歴史に残る重みを持って示す」と意気込む。異論はない。

 しかし日本は米国の核の傘に頼り、6月にあった核兵器禁止条約の初の締約国会議へのオブザーバー参加を拒否した。核保有国が入っていない禁止条約には実効性がないとして、保有国と非保有国の「橋渡し」が重要と強弁する。ならば橋渡しの先に見据える、核廃絶に至る方法こそ示す必要がある。

 8月に米国で開かれる核拡散防止条約(NPT)再検討会議が試金石となろう。岸田首相自らが出席し、核軍縮を義務付けられた核保有5大国に核弾頭数の削減や保有情報の透明化を呼びかける見通しだ。広島サミットに向け、日本政府は核軍縮プロセスの議論を主導する役割を果たなければならない。

 地元では広島県、広島市、経済界を挙げた官民組織「広島サミット県民会議」が発足した。経済効果や観光の底上げなど期待は多岐にわたる。とりわけ平和の発信や、核廃絶を促す機運づくりに力を入れてほしい。

(2022年7月23日朝刊掲載)

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