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連載・特集

2023広島サミット あと300日 被爆地で探る未来 官民一体で準備へ

 あと300日。広島が国際社会の耳目を集める時が訪れる。来年5月19日、被爆地で初めて開幕する先進7カ国首脳会議(G7サミット)。この国際会議を「イロハ」から学ぼう。ことしドイツであったサミットはどうだったのか。会議の成否を握るといってもいい要人警護はどうあるべきか。さあ、カウントダウンを始めよう。

独サミット・ルポ

要人警護・もてなし 手厚く

 遠くアルプス山脈からの吹き下ろしだろうか。G7各国と欧州連合(EU)の旗がはためく。ドイツ・ミュンヘンの国際空港。6月26日からのサミットに合わせ、岸田文雄首相ら各国首脳を乗せた政府専用機が次々と降り立った。

 滑走路で出迎えたのは、色鮮やかな民族衣装を着た人々。100人はいただろう。歓迎ムードの中にあっても、首脳の脇はSPや警察官がしっかり固める。要人警護のピリピリとした空気ばかりは隠しきれない。

 ヘリコプターなどで各国首脳が向かったのは、アルプスの峰や湖に抱かれたエルマウ城。100年ほど前にドイツの哲学者が自然の静けさの中で音楽などを楽しむために建てた。プールやスパ、コンサートホールを備えた五つ星の高級ホテルだ。ドイツ政府が会場に選んだのも、施設の充実ぶりに加え、人里から離れ警備しやすいからだという。

 日本政府の関係者らによると、サミットのような大きな国際会議では、各国首脳と通訳しか入れないゾーンや、秘書官らのエリアなど一帯を区分して人の出入りを制限する。住民もパスがないと入れない。

 今回のサミットでは、会場周辺に仮設の建物が設けられ、入場者は金属探知機などによる検査と顔認証を受けた。問題がなければ、ドイツ政府の用意した車に乗り換え、エルマウ城へ向かう。安倍晋三元首相が銃撃されて亡くなった事件を受け、広島サミットの警備はより厳重になるだろう。

 ドイツで取材を認められた報道関係者は約2500人。その活動も制限された。日本から同行した報道陣のプレスルームは、エルマウ城から北東約100キロにあるミュンヘンのホテルの大部屋。記者は日本政府のブリーフィングを取材して記事を書いた。街に警察官の姿はなく、看板も見当たらない。現場から遠く隔離されていると実感した。

 サミットでは要人のもてなしも重要な要素になる。各国トップはアルプスの大自然を眺めながら語らい、ランチやディナーには地元のバイエルン州産の牛肉や野菜が使われた。広島サミットでは世界遺産の島・宮島(廿日市市)の訪問も検討されている。食や文化を世界に発信する好機が広島に訪れる。(境信重)

警備態勢 最大2万人超に

安倍氏銃撃 県警など警戒感強める

 広島サミットは、国内で前回開催された2016年の伊勢志摩サミット(三重県)と同様、各国の要人警護やテロ対策に最大で約2万人を超える警備態勢が予想される。奈良市で街頭演説中の安倍晋三元首相が銃撃され死亡した事件で警察の警護の問題点も浮上する中、サミット警備の要となる広島県警には、県民の理解と協力を得ながら、官民一体での万全な準備が求められる。

 「開催地となる広島は、そのインパクトの強さからテロの標的にされやすく、危険性は否定することができない」。13日、広島市中区の県警本部であった官民でつくるテロ対策の推進会議で、森内彰本部長はこう述べ、警戒感を強めた。安倍元首相の銃撃事件に触れ、「サミットを取り巻く警備情勢はますます厳しくなっている」とし、情報共有と連携強化を訴えた。

 銃撃事件では、安倍元首相の後方から容疑者の接近を許したことや2回の発砲を回避できなかった問題点が指摘され、警察庁は12日、警護に関する「検証・見直しチーム」を設置。要人警護のあり方や再発防止策を検討し、8月中に検証結果を取りまとめる。市は事件を受け、同月6日に中区で営む平和記念式典の警備について、県警とあらためて警備範囲や役割分担を見直している。首脳や要人が多く集まるサミットでの警備は「さらに厳重なものとなるのは間違いない」(県警幹部)とみられる。

 県警は7月1日、サミット対策課を設置。9月に約100人に増員し、全国の警察本部からの応援も含めて最大時で2万人を超える警備態勢を想定している。交通規制や検問などへの県民の協力を呼びかけ、警備訓練も順次進める構えだ。植義則課長は「あらゆる事態を想定した強さと、国際的行事にふさわしい礼儀と優しさを持った警備に努める」と話している。(野田華奈子)

主会場の候補にプリンスホテル

外相会合で利用

 広島サミットで主会場の候補に挙がっているのは、広島市南区の宇品島にあるグランドプリンスホテル広島だ。三方を海に囲まれ、島への陸路は橋1本に限られる。2016年4月の広島外相会合でも会場となっており、陸と海、双方からの警備が可能だ。

 宇品島は約0.5平方キロの島で、東、西、南方向が海域。伊勢志摩サミット主会場の賢島は、開幕5日前から立ち入りが規制され、島と周囲を結ぶ橋のたもとにはゲートと保安検査場が設置された。

 広島サミットでも同様に人や車の出入りが制限され、島内の元宇品地区では、サミット開催に伴う生活への影響などについて、事前に住民説明会が開かれるとみられる。(野田華奈子)

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そもそもサミットって?

 サミットとはいったい、どんな国際会議なのか。いつ始まり、どのようなメンバー構成で、これまでどんなテーマで話し合ってきたのか。みんなで学ぼう。(田中美千子)

G7の意味は

 「G」はグループ、「7」はフランス、米国、英国、ドイツ、日本、イタリア、カナダという参加7カ国を指している。つまり、G7は7カ国グループ(グループ・オブ・セブン)の略。これらの国と欧州連合(EU)のトップが集まる「頂上会議」という意味で、英語で「山頂」を表すサミットと呼ばれる。

始まった経緯は

 長い歴史がある。初回は1975年11月、フランス・パリ郊外のランブイエ城で開かれた。世界は当時、戦後最大の不況に陥っていた。中東の戦争を引き金に原油価格の高騰が広がるなどしたためだ。そこで、経済を立て直すために結束しようと、フランスのジスカールデスタン大統領(当時)が開催を提案。今のG7からカナダを除いた6カ国(ドイツは当時の西ドイツ)の首脳が集まった。

 この会合で、先進国のトップが定期的に顔をそろえて、自由に討議する意義が確認された。翌76年にカナダが加わり、7カ国の持ち回りで毎年開かれるように。日本では79年に東京で初開催され、広島サミットは国内では7回目となる。

話し合うテーマは

 当初の主題は経済問題だった。初めて公式に政治の話をしたのは80年だ。その前年、旧ソ連がアフガニスタンに侵攻したのを受け、ソ連の完全撤退を求める文書を発表した。以来、テロ対策や温暖化、自由貿易…。その時々の地球規模の課題を扱い、その成果を「宣言」などとして発表している。

「G8」時代があったの?

 ロシアが参加し、メンバーが8カ国になっていた時期がある。旧ソ連は長年、共産主義を掲げる東側諸国を率いて西側に対抗してきたが、91年に崩壊して東西冷戦が終結。G7はロシアを議論に取り込むようになり、97年に正式メンバーとして迎えた。

 ところが2014年、ロシアはウクライナ南部のクリミア半島を強制編入。他の国々は「国際法違反」「主権侵害」と反発し、ロシアを締め出した。ロシアはその後もウクライナとの国境沿いに兵力を集結させ、今年2月には武力侵攻に踏み切った。当面、サミットへの復帰は考えにくい。

広島開催の特徴は

 今回は原爆投下国の米国をはじめ、英仏の核兵器保有3カ国が被爆地に集う。平時なら広島開催を敬遠するはずだが、世界は今、ウクライナ危機に揺れる。だからこそ広島を地盤とする岸田文雄首相の「平和へのコミットメントを示すのに広島ほどふさわしい場所はない」という提案が受け入れられた、との見方が強い。どんな宣言を発信するのか、いつにも増して注目される。

日本政府の役割は

 来年1月1日から1年間は「議長国」となり、会合の準備や進行役を担う。国際情勢に応じ、緊急会合を招集する場合もある。例えば、今年の議長国ドイツはロシアのウクライナ侵攻を受けて、6月のエルマウ・サミットに先立ち、複数回の緊急会合を開いた。

開催地への影響は

 16年の伊勢志摩サミットが開かれた三重県は、建設やイベントPRなどの「直接的な経済効果」だけでも県内で約483億円、日本全体では約1070億円もの効果があったと独自に試算した。さらにサミット後の観光客増加などの効果は1489億円にも上る、とみている。国際社会の安定のためにも、広島の発展のためにも、サミット成功に期待が寄せられるわけだ。

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サミットのミニ知識

 「なるほど」「へえ~」と膝を打ちたくなるサミットの慣習を紹介する。

■記念撮影の立ち位置
 サミットのたびに公開される、首脳陣の集合写真。実は並び方に法則がある。真ん中は議長。つまり、今回は岸田文雄首相だ。あとは内側から大統領、首相の順に並ぶ。同格の人が複数いれば、在任期間がより長い人が中央寄りに立つ。

 外交交渉はこういったマナーを重んじる。席次や国旗の立て方、車の乗り方にまでルールがあるのだ。

■登山にちなんだあだ名
 首脳を助け、中心的に準備を進める人を「シェルパ」と呼ぶ。本来は登山者の間で使われる言葉だ。山頂(サミット)にたどり着けるよう、案内してくれる人を指す。

 日本では毎回、外務省の外務審議官(経済担当)が担う。各国シェルパと連絡を取り合い、事前に意見調整する難しい役割を担う。

紙面編集・杉原和麿

(2022年7月23日朝刊掲載)

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