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連載・特集

被爆77年 家族の記憶 <1> 進む老い 「あの日」をつなぐ

 「今まであまり話す機会がなかったけれど…」。6月上旬、7歳の時に広島市で被爆した木元八恵子さん(84)=呉市=が、長男誠司さん(61)と長女朋子さん(59)、誠司さんの長男で、孫の柊一郎(しゅういちろう)さん(20)に語り始めた。

 左腕に残る深い傷、まだ記憶に鮮明な遺体の山、ケロイドに悩んだ弟…。時折、涙を浮かべながら静かに振り返った。

 家族がそろって「あの日」に向き合うのは初めて。誠司さんが、2022年度から広島市が養成を始めた「家族伝承者」になると決めたことがきっかけだった。家族の被爆体験を詳細に聞き取り、次代につなぐ役割を担うと決めた夏、母の被爆体験を詳しくは知らなかった2人に誠司さんが声をかけた。

 米軍が広島に原爆を投下し、無差別に市民の命を奪ってから77年。生き延びた多くの被爆者も亡くなり、老いを重ねている。ロシアのウクライナ侵攻で核兵器使用のリスクが高まる今、被爆者の記憶と家族の姿を通じて原爆とその非人道性についてあらためて考える。(余村泰樹)

(2022年7月27日朝刊掲載)

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