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社説・コラム

天風録 『今年の8・6の空は』

 英ロックバンド、クイーンが47年前に発表した「ボヘミアン・ラプソディ」は約6分と長い。交響曲のように五つの異なる楽章を収めた構成で、常識を覆した名盤とされる。日本向けレコードジャケットの写真を担当したのは意外にも広島市出身の写真家である▲国内でロックカメラマンの草分け的存在の三浦憲治さん。レッド・ツェッペリンやYMO、同郷の矢沢永吉さん、奥田民生さんら国内外の著名アーティストを数多く写真に収めてきた。73歳になった今もライブ会場でステージと客席の間を駆け回る▲「広島を撮ったら?」。仲間に背中を押され、故郷へレンズを向け始めたのは還暦を過ぎてから。その作品を並べる写真展「ミウラヒロシマ」がきょう、中区の基町クレドで始まる▲原爆ドーム前にたたずむ人、川面に漂う七色の灯籠、赤い風船舞うマツダスタジアム…。祈りと日常、熱狂がない交ぜで、既視感を感じさせない。三浦さんなりの「ラプソディ」のよう▲その多くが空を広く捉えているのが印象的だ。被爆者の母に「あの日の朝は青空だった」と聞いたからという。ロシアがウクライナに侵攻して迎える今年の8・6。どんな空を切り撮るだろうか。

(2022年7月29日朝刊掲載)

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