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連載・特集

手塚治虫展 「マンガの神様」のメッセージ <3> 「火の鳥 未来編」直筆原稿

劇的表現 修正重ねた跡

 本作は「火の鳥 未来編」で、肉体が滅んだ後に宇宙生命(コスモゾーン)として生き続ける人物が火の鳥と邂逅(かいこう)する場面である。繊細に描写された岩場や噴煙の中に浮かび上がる人影は各こまで異なるシルエットで描かれ、最後のこまでは枠線の外から火の鳥と対峙(たいじ)することで遠近感と空間の広がりを演出するなど、心象的なシーンを劇的に表現している。

 雑誌や単行本では白黒の画面となっているが、手塚治虫の直筆原稿では印刷に写らない青色の下描き線、ホワイトで線を消した跡、一度描いた絵の上から紙を貼って描き直した跡など、原稿を描くに際しこだわり抜いた痕跡が確認できる。印刷では見て取れないマンガ家の仕事を鑑賞できるのは展覧会の醍醐味(だいごみ)であろう。(奥田元宋・小由女美術館学芸員 渡辺憲司)

 「手塚治虫展」(中国新聞社など主催)は、三次市東酒屋町の奥田元宋・小由女美術館で開催中。30日まで。水曜休館(10日を除く)。一般千円、大学・高校生500円、中学生以下無料。奥田元宋・小由女美術館☎0824(65)0010。

(2022年8月1日朝刊掲載)

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