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社説・コラム

天風録 『MISIAさん』

 湾岸戦争の火ぶたが切られた約30年前、兵士よりも子どもの犠牲が多いと伝え聞き、1人の小学生は作文で書く。〈私は子どものままで死にたくない。だから私が大人になるまで戦争をしないで。戦争をさせない大人になるから〉▲その子は長じて昨年暮れ、紅白歌合戦で2年連続の大トリを務めた。歌姫MISIA(ミーシャ)さんである。歌に〈戦争をさせない〉力を見いだしたのだろう。この春、雑誌「婦人公論」のインタビューで母親が振り返っていた▲第30回の節目を迎えた広島大のペスタロッチー教育賞に、MISIAさんが選ばれた。賞を贈る理由にこうある。音楽の力でよりよい世界の構築に向け、子どもたちの命と学びを支える活動を長年続けてきた―と▲傾倒するソウル音楽の源流アフリカへの思い入れは強い。小学校の支援に加え、家族の職業訓練に携わっている。現地からニーズの高い蚊帳も贈る。かの地の問題をわが身に引き寄せ、「私に何ができるか」と考える姿勢は、誰から学んだのだろう▲〈早く戦争をやめて〉〈学校に行き、友達と遊びたい〉。そう望んでいるはずのウクライナの子どもたちのため、何ができるのか…。きっと思いを巡らせている。

(2022年7月31日朝刊掲載)

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