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被服支廠の絵本 1日出版 「旅のネコと神社のクスノキ」 芥川賞作家池澤さん イラストレーター黒田さん

南区で7日まで原画展

 広島市南区にある最大級の被爆建物「旧陸軍被服支廠(ししょう)」を題材にした絵本「旅のネコと神社のクスノキ」が完成した。手がけたのは芥川賞作家池澤夏樹さん(77)とイラストレーター黒田征太郎さん(83)。主人公のネコが1945年7月に被服支廠を見て「あれはなに? あの大きな建物」と、そばに立つクスノキに尋ねるところから物語は始まる。(久保友美恵)

 原爆投下後の9月に再会したネコとクスノキは、問いと語りを通し、原爆や戦争、生命について思いを巡らせる。被服支廠が「ヘータイさん」の軍服を作ったり、弾痕のある服を繕ったりしたこと、原爆でけがをした人たちが運び込まれ、中で死んだ人もいたことなどを描いた。

 広島、長崎を題材に創作を続けてきた黒田さん。昨年3月、広島市の市民団体に招かれて現地を訪れた際「この建物は生きている」と感じ、被服支廠の歴史を伝える本の制作を決意した。東京の出版社が池澤さんとの共作を発案し、今年3月、2人で現地を取材し物語の構想を深めた。池澤さんは被服支廠の北にある比治山に注目し、絵本にもその存在を盛り込んだ。

 B5変判、80ページ。1870円。8月1日から全国の書店に並ぶ。巻末には被服支廠や原爆投下についての池澤さんの考察も付けた。発刊元スイッチ・パブリッシング(東京)の新井敏記編集長は「戦後77年を迎えて悲しみが風化しつつある中、日本を代表する作家2人が、人の命を奪う世界を再び繰り返さないためにとの思いを込めた」と強調する。

 1~7日には南区のエディオン蔦屋家電で原画展(入場無料)がある。6日午後1~3時には作者2人が作品に込めた思いを語る。トークイベントの参加には絵本1冊の購入が必要。定員20人。同店ホームページの専用フォームから申し込む。

旧陸軍被服支廠
 旧陸軍の軍服や軍靴を製造していた施設。1913年完成で爆心地の南東2・7キロにある。原爆投下時は被爆者の臨時救護所となった。戦後は13棟のうち4棟がL字形に残り、民間企業の倉庫や広島大の学生寮として使われた。広島県が1~3号棟、国が4号棟を所有している。広島市が94年に被爆建物に登録。95年ごろから使われなくなり、築100年を超えた建物は劣化が進んでいる。

(2022年7月30日朝刊掲載)

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