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社説・コラム

天風録 『NPT再検討会議』

 当時の西ドイツや日本などの核武装の芽を摘むのが狙いだったそうだ。1970年発効の核拡散防止条約(NPT)。被爆国の国民感情を考えると核保有なんて杞憂(きゆう)に思える。しかし日本の政治家はそうでもなかった▲「核保有を一握りの国だけに認めるのは不平等」との筋論から加盟に反対する政治家もいた。声高だったのは「核武装の選択肢を確保しておきたい」との意見。与党で根強く、調印から批准するまで6年以上かかった▲NPT再検討会議がきのう、ニューヨークの国連本部で始まった。5年おきに開くはずが新型コロナ禍で2年余りずれた。延期のせいで思わぬ出番を手にしたのが岸田文雄首相だ。会議に出て演壇に立ったのは日本の首相では初めて▲ウクライナを侵略したロシアが核兵器の使用をちらつかせる。日本では、危うい「核共有」論議が危機に便乗して巻き起こった。首相の「核なき世界」の訴えは暗雲を吹き飛ばせたのか▲今年初め、ロシアを含む五つの核保有国は核兵器に関する共同声明を出した。「核戦争に勝者はおらず、回避するのが最重要の責務だ」と述べていた。忘れたなどと言わせず、思い出させて核使用の芽を摘み取らねば。

(2022年8月2日朝刊掲載)

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