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NPT再検討会議【解説】核の岐路 現実路線貫く 首相演説

 日本の歴代首相で初めて核拡散防止条約(NPT)再検討会議の出席に踏み切った岸田文雄首相は「核兵器のない世界」を理想とし、厳しい安全保障環境を理由に、現実的な取り組みを重ねる姿勢を貫いている。被爆地広島の選出で、被爆国政府のトップとして行動計画を国際社会に示す意義はあるが、一刻も早い核兵器廃絶こそ世界に安全をもたらすという被爆者の声には応え切れていない。

 首相は就任間もない昨秋時点で再検討会議への出席意欲を周囲に伝えるほど、核兵器保有国を交えて核軍縮策を探るNPTの枠組みを重んじる。1日の演説でのNPTの「守護者」という言葉にも読み取れる。行動計画には、若者の被爆地訪問を促す国連基金の創設や包括的核実験禁止条約(CTBT)に関する首脳会合の主催など歴代政権にない方策を盛り込む。

 ただ、これらは従来の日本政府の主張の延長線上に過ぎない。それを象徴するのが核兵器禁止条約に触れない点だ。首相はかねて「核兵器のない世界への出口」と位置付けるが、この局面でも条約に批判的な米国の意向に配慮した感は否めない。核兵器廃絶の機運を反転し、高めるには、禁止条約に日本が参加し、保有国を招き入れる姿勢こそ必要ではないだろうか。

 核超大国のロシアのウクライナ侵攻で、核軍縮どころか核軍拡に振れかねない国際社会の岐路に、首相の出席と演説は重みを増す。その意気込みで、究極の安全保障は全ての国の核兵器廃絶しかないとの真理を発し、実行に移す外交手腕を被爆地は望んでいる。(ニューヨーク樋口浩二)

(2022年8月2日朝刊掲載)

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