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社説・コラム

社説 ミャンマー民主派処刑 弾圧を即時に停止せよ

 昨年2月にクーデターを起こし、圧政を続けるミャンマー国軍が、民主活動家や元議員ら4人に死刑を執行した。政治犯の処刑は1976年以来という。

 死刑判決は1月、国軍が設置した軍事法廷が言い渡した。審理は非公開で、公正さや透明性を著しく欠く。国軍関係者への「テロ行為」に関与した罪とされるが、市民に銃口を向け多くの命を奪ってきたのは国軍ではないか。断じて容認できない。

 国軍が民主化指導者のアウンサンスーチー氏らを拘束し、全権を奪い取ってきのうで1年半。死刑執行は民主派や市民への弾圧が苛烈さを増している表れだろう。先月末にはドキュメンタリー映像作家とみられる日本人男性がデモを撮影中に拘束された。われわれにとっても人ごとではない。

 人権団体によると、これまでに117人が死刑を宣告されている。全員の執行をやめさせるよう、国際社会は改めて圧力を強めなければならない。

 処刑された4人のうち民主活動家のチョーミンユ氏はスーチー氏の側近。ピョーゼヤートー氏はヒップホップ歌手からスーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)の下院議員となった。

 死刑執行を日米欧などが一斉に非難したのは当然だ。ミャンマーも加盟する東南アジア諸国連合(ASEAN)は自制を強く求めていた。今年の議長国で国軍に融和的だったカンボジアも非難の声明を発表した。あすから日米中韓も加わり開かれるASEAN外相会合などから国軍代表が締め出されるなど、国際的な孤立を一層深めている。

 一方、民主派勢力がつくった挙国一致政府(NUG)は「国民防衛隊」を結成して国軍にゲリラ的な攻撃を強める。死刑執行は国軍による報復と見せしめの側面がある。報復の連鎖を断ち切るにはASEANの仲介受け入れと対話開始が不可欠だ。

 そんな中、国軍トップのミンアウンフライン総司令官はきのうの演説で、昨年4月に自らが出席したASEAN臨時首脳会議で合意した暴力の即時停止など5項目について「今年中に可能な限り履行する」と述べた。

 額面通りには受け取れまい。これまで合意に背を向け、来年のやり直し総選挙も民主派を排除し長期支配を狙う姿勢を鮮明にしているからだ。国際社会は履行を強く迫らねばならない。

 見過ごせないのは中ロの対応だ。中国は先月、王毅外相がミャンマーを訪問し、関係強化で合意した。ロシアは武器供与を続けている。国軍を支援する態度をすぐに改めてもらいたい。

 日本政府は制裁を連発する欧米と一線を画し、国軍と意思疎通を続けて改善を促す姿勢を取ってきた。しかし目立った成果は出ていない。

 政変が起きるまでのミャンマー経済は「アジア最後のフロンティア」として活況を呈した。日本は官民を挙げて開発を支援し、多くの企業が進出した。今は事業の縮小や停止が相次ぐ。 こうした権益への配慮が対応の背景にあるとすれば問題だ。人権軽視との批判が付きまとうのも当然で、国軍に手を貸すようなことはやめるべきだ。政府は新規の政府開発援助(ODA)を凍結したが、弾圧の停止や拘束者の解放に応じない限り既存事業を中止するなど、厳しい態度で臨むことが必要だ。

(2022年8月2日朝刊掲載)

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