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1955年刊行の「広島」 中区の民家に500冊 被爆時の惨状詠む句集発見 今は入手困難 活用探る

流星や死ねぬうめきが拡がる

 原爆投下から10年後の1955年に刊行された句集「広島」約500冊が、広島市中区の民家で見つかった。「流星や死ねぬうめきが拡(ひろ)がる」―。あの日の惨状を詠んだ作品群を収めた同書は、現在は入手困難な貴重な本となっている。先月譲り受けた俳壇関係者が活用策を探っている。(山田祐)

 句集はB6判、210ページ。当時、広島県内の俳句結社が集まって刊行会を結成し、公募作など1521句を一冊にまとめた。今回の500冊は、編集委員の一人だった中区の故結城一雄さん宅で長女の広藤暁子さん(75)=佐伯区=が見つけた。いずれもビニール製のカバーが付き、保存状態は良い。

 掲載句の多くは広島での被爆体験を記す。「氷水 のませば死ぬる 呑(の)ませけり」は、瀕死(ひんし)の母に水を求められた詠み手の葛藤を伝える。10歳の女の子が弟を思って詠んだ「蟬(せみ)鳴くな 正信ちゃんを 思い出す」。句に添えられた注釈で、この女の子も直後に亡くなったと分かる。

 句集は、被爆作家の原民喜の句のほか、県外の俳人が広島に思いを寄せた作品も含まれる。現在は、市内の図書館などが所蔵し貸し出しもしているが、購入できるのは一部の古書店に限られる。

 広藤さんは手元に残す分を除き、350冊を広島俳句協会運営委員の飯野幸雄さん(82)=南区=に、100冊を東京の俳句団体に寄贈した。飯野さんは「記憶の風化が進む中、17音に込められた体験と思いが多くの人に届くようにしたい」と、図書館への寄贈や協会関係者らへの販売などを検討している。

(2022年8月2日朝刊掲載)

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