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井伏の「故郷観」 古墳群から探る 福山大生、エッセー基に加茂を調査 幼少の記憶たどる

 福山大の青木美保教授(日本近代文学)のゼミ生15人が、井伏鱒二のエッセーを基に福山市加茂町の古墳を調査している。作品に出てくる場所と極めて類似する古墳群に行き着き、井伏が作品で幼少期の記憶を忠実につづっていることを裏付けた。今後も周辺の古墳を調べ、井伏の「故郷観」への影響も探る。(猪股修平、山川文音)

 ゼミ生が研究するのは、1938年発表のエッセー「郷里風土記」。井伏が幼少期や少年時代を過ごした深安郡加茂村粟根(現・福山市加茂町粟根地区)について触れている。井伏は「(加茂村の)南向きの斜面には古墳の集団がよく見つかった」とし、「子供のとき裏の山で幾つとなく古墳を発掘し、土器をたくさん所有して遊戯のときに使用した」と回顧している。

 4年関谷香菜さん(21)は昨年、加茂町の地図を頼りにエッセーに出てくる古墳を探した。ただ、周辺には古墳が少なくとも10カ所あり、その時点のリポートでは「井伏がどこへ遊びに行ったかは分からない」と書いていた。  ことし5月以降、ゼミ生が粟根地区のフィールドワークに着手。実際に歩いて古墳は急斜面の山林の中にあることなどをつかんだ。さらに古墳の形状などから、作中に登場したのは井伏の生家近くに多数ある古墳の中で「土井古墳群」である可能性が高いと結論付けた。

 ゼミ生は7月中旬、県教育事業団埋蔵文化財調査室(広島市西区)の元室長で古墳や中世の遺跡に詳しい篠原芳秀さん(74)=福山市駅家町=を招いて話も聞いた。篠原さんは、加茂町ではガラス小玉が多く出土している点などから、安定した勢力基盤が存在した可能性があると解説した。

 青木教授は、生家周辺に多数ある古墳は「井伏の古里に対する考え方に影響を及ぼしたかもしれない」と指摘。現地調査を進めつつ「作品も読み込んで解き明かしたい」とする。

(2022年8月3日朝刊掲載)

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