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連載・特集

反核 平和 26の祈り 26作目「ヒロシマ・アピールズ」ポスター デザインの力で世界へ

 言葉は通じなくても、デザインの力で、見る人の心に―。核兵器廃絶や平和への願いを世界に届けるため毎年制作される「ヒロシマ・アピールズ」ポスター。ことしで26作品を数える。2022年版の制作者は、ユニクロのロゴデザインなどで知られるクリエーティブディレクター佐藤可士和(57)=東京都=だ。

 1983年にスタートした事業は、一時中断をへて2005年に再開され、いまに続く。日本グラフィックデザイン協会(JAGDA)広島地区、広島国際文化財団、ヒロシマ平和創造基金が共同で取り組んでいる。

 制作は日本を代表するデザイナーが無償で担ってきた。第1作は、JAGDA初代会長だった亀倉雄策の「燃え落ちる蝶(ちょう)」。極彩色のチョウが羽や体を炎に焼かれ落下していく。幻想的な図柄が印象深い作品である。その美しさゆえに、生命を脅かす原爆の恐怖が際立つ。以来毎年趣向を凝らした作品が、見る者の心を揺さぶってきた。

 粟津潔「鳥たち」(1984年)はパブロ・カザルスの「鳥の歌」に想を得て鳥のさえずりに平和のイメージを重ねた明るい作品。青葉益輝「市民参加のスタンプポスター」(2008年)は多くの市民に「PEACE」のスタンプを押してもらう手法で一人一人が平和を育む大切さを表す。

 近年も考え抜かれたデザインが続く。空を見上げる人物の姿が、見る者の想像力をかき立てる〓西薫「夏の陽(ひ)のまぶしさ」(13年)。原爆被害が不戦の「重し」となるよう願いを託した佐藤卓「ヒロシマという重石(おもし)」(15年)…。

 昨年の大貫卓也「HIROSHIMA」は白と黒を基調に、戦争や核の脅威から逃れられない世界の現状をスノードームのように表現。それを「傍観者」としてガラス越しに見る私たちのありようを問う。拡張現実(AR)技術も取り入れ、スマートフォンなどをかざすと、動画が映し出される仕組みは斬新だ。

 ポスターは、かねて海外での原爆展などでも紹介され、評価されてきた。とりわけ欧州ではラトビア、オーストリア、ドイツで歴代ポスターの展覧会が巡回するなど、ヒロシマの声を伝え続けている=敬称略。(森田裕美)

高まる核脅威 今こそ声を大に 2022年版制作 佐藤可士和さん

 2022年版の制作者、佐藤可士和さんの「NO NUKES NO WAR」と題した作品は、反戦反核のメッセージをストレートに伝える。

 「ロシアのウクライナ侵攻で核の脅威や緊張が高まり、核戦争の恐怖が今までにないリアリティーで迫ってきた。こんな時だからこそメッセージを強く発する必要がある」と語る。

 ポスターは、核兵器と戦争を否定する言葉を、画面いっぱいの文字メッセージで表現。「当たり前のことを言っているのだけど、とにかく核兵器や戦争は絶対にいけないんだということを今、声を大にして言わなくてはいけない」  「O」の部分は黄色の円。リングの「輪」と平和の「和」のイメージを重ね、「平和の実現を心から願う未来に向けての希望の光」の意味を込めて、オリジナルの「光の色」を作り、描いた。

 東京都出身の佐藤さんは高校生の時、修学旅行で初めて広島を訪れた。原爆資料館(中区)で被爆の惨状を捉えた写真などを見て、大きな衝撃を受けたという。「資料館のインパクトが強くて。ほかの場所も回ったはずなのに、全く覚えていない」と振り返る。

 デザイン界の第一人者の手により脈々と続く「ヒロシマ・アピールズ」ポスター。制作依頼を受けた時、佐藤さんは、重責に押しつぶされそうになったという。「広島の人間でもないし、原爆や核兵器についてずっと考えてきたわけではない。僕にやる資格があるのかと…」

 今年3月、再び資料館へ。リニューアルした館内をじっくりと見て回り、ヒロシマに向き合った。「より理解が深まった。ロシアによるウクライナ侵攻の後だったので、あらためて核使用は絶対にあってはならないと痛感した」と話す。

 初めて見る人にも分かるよう、どう伝えるか―。考えては作り、作っては考えを繰り返し、数カ月がかりで完成させた。「ポスターを見てヒロシマをリマインドする人が、ちょっとでも増えたらいい。デジタルなど多彩なメディアで展開し、世界中に拡散できたら」と期待する。

 ポスター公開に合わせ、再訪した被爆地で、「広島はやはりとても特別な場所だと感じる。ぜひ皆さんからいろいろな形で平和を発信して」と力を込めた。(森田裕美)

さとう・かしわ
 1965年生まれ。多摩美術大卒。博報堂を経てクリエイティブスタジオ「SAMURAI」設立。東京ADCグランプリほか受賞多数。国立新美術館(東京)のシンボルマークデザインのほか、ユニクロや楽天グループなど企業や事業のブランディングを含めた包括的デザイン手法で知られる。多摩美術大客員教授、京都大経営管理大学院特命教授。

原爆資料館などで販売中

 2022年版ポスターはB1判で2千枚印刷。原爆資料館などで1枚1100円で販売しています。

 7月15日におりづるタワー(広島市中区)であった基調講演の動画を見ることができます。

(2022年8月4日朝刊掲載)

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