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[ヒロシマの空白 証しを残す] カルテが示す被爆惨状 広島県医師会が伝承コーナー新設

情報不足 死因記述に変化

 広島県医師会は4日、被爆直後の患者のカルテなど医療関連資料を展示する「被爆伝承コーナー」を、広島市東区の県医師会館1階ロビーに新設する。被爆直後の県内の救護活動に関する医療記録の情報提供を1年前に全会員に呼びかけ、収集を進めていた。医療の観点から原爆被害を広く知ってもらおうと、平日午前9時~午後5時に無料で一般公開する。(明知隼二)

 県医師会が新たに収集し、展示する資料の一つが、現庄原市の開業医だった瀧口一三(いちそう)さん(1952年に74歳で死去)が残した12~51年の膨大なカルテ。被爆後の時期に「疫痢」「急性腸カタル」など下痢を伴う病気の診断を受けた患者が、数日で亡くなったケースが記されている。

 当時はまだ原爆や放射線の情報が乏しく、こうした診断の中に被爆による急性障害が含まれる可能性があるとみて、県医師会が分析を進めている。寄贈した孫で医師の峻(たかし)さん(80)=中区=は「後世に残すのが使命と思い保存してきた。被爆を巡る新たな事実解明のヒントになればうれしい」と期待する。

 ほかに、現安佐南区の開業医だった伴(ばん)冬樹さん(67年に72歳で死去)による45年8月6日~9月16日の死亡診断書を展示。死因の記述が原爆投下直後の「戦災死」などから、9月に入り「放射線傷害」などに変わっていく様子を記録する。被爆医師の証言映像の収録も進めており、完成次第、上映する。

 県医師会は、原爆の非人道性や、惨状の中での医師の苦闘を伝える貴重な医療記録の散逸を防ごうと、昨年8月、全会員約6900人を対象に初めて資料の有無に関する情報提供を要請。展示資料の収集につながった情報を含め12件が寄せられた。

 松村誠会長は「核兵器の使用リスクが高まる今こそ、医師から見た被爆の実態にも触れてほしい」と願っている。

(2022年8月4日朝刊掲載)

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