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世界混迷 ヒロシマの声を あす原爆の日 重み増す証言

 あの日を知る被爆者の願いを、言葉の重みを、いつにも増して肌身に感じる夏になった。ウクライナに侵攻したロシアが核兵器による脅しを繰り返し、被爆77年に、核戦争は現実に起こりうる危機として再認識されている。巡り来る6日の原爆の日。混迷を深める世界へヒロシマの訴えを届けたい。ノーモア・ヒバクシャ、ノーモア・ウォーと。

 今まさに起きている異国の地の戦火は、広島の被爆者や市民の心を激しく揺さぶっている。核超大国のロシアが核兵器の使用を示唆し、隣国のウクライナで市民の命や暮らしを残虐に奪う。使用はもちろん核兵器による脅しも、戦争も拒むヒロシマの声が聞こえていないのだろうか。

 祖国から逃れた避難者たたちは広島を知った。福山市に滞在するウクライナ人の少女は原爆資料館(広島市中区)を訪れた際に、涙が止まらなかったという。焦土と化した被爆地を母国に重ね、無差別に一瞬で命を奪う原爆の悲惨さにおののいた。

 広島、長崎の戦禍を経た世界で唯一の戦争被爆国の日本政府は「核兵器のない世界」への先導役をいまだに果たしていない。核兵器を全面的に違法化した核兵器禁止条約を批准せず、ことし6月にあった初の締約国会議にもオブザーバー参加さえしなかった。国政の場では、ウクライナ情勢に乗じて米国の核兵器を日米で共同運用する「核共有」を議論しようとする動きまで出ている。

 米ニューヨークの国連本部で1日に始まった核拡散防止条約(NPT)再検討会議で、日本の首相として初めて出席した岸田文雄首相は「核兵器のない世界」の追求を呼びかけた。来年5月には先進7カ国首脳会議(G7サミット)を広島市で初めて開く。核軍拡を阻止し、核兵器廃絶を進める覚悟が被爆地選出の首相に求められている。

 「ネバー・ギブアップ」。核兵器をなくす道のりの険しさにくじけそうになる時、各国の政治家や市民を勇気づけてきた広島県被団協の前理事長、坪井直さんの声をもう聞けない。昨年10月に96歳で亡くなった。今年3月末時点で被爆者健康手帳の所持者は11万8935人となり、初めて12万人を下回った。平均年齢は84・53歳。直接語る時間は着実に減っている。

 この春、被爆者の記憶を受け継ごうと、子や孫たちは「家族伝承者」を目指して動き始めた。耐えがたい苦しみや怒りを平和への願いに変えてきた被爆者たちの言葉に耳を澄まそう。この世界から核兵器も、戦争もなくそう。誰もが伝承者として、世界へ声を届けられるはずだ。(和多正憲)

(2022年8月5日朝刊掲載)

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