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社説・コラム

社説 ペロシ議長台湾訪問 米中は緊張緩和を急げ

 ペロシ米下院議長の台湾訪問をきっかけに、台湾を巡る米国と中国の関係が一気に緊迫化している。

 中国は米国ナンバー3の行動に猛反発し、きのう台湾を包囲する形で大規模な軍事演習を開始した。周辺海域に弾道ミサイルまで発射したと伝えられる。米国もペロシ氏の訪問に先立ち、警戒のため空母を近海に展開している。偶発的な衝突の可能性も否定できない。

 日本を含む東アジアの安全保障環境を悪化させかねない事態を強く懸念する。ましてや世界平和を祈る広島、長崎の原爆の日が近い。少なくとも目の前の緊張を早急に解くために、自制と対話を求めたい。

 米中関係は長年、台湾を巡ってはガラス細工のように微妙なバランスの上に立ってきた。米国は中国が主張する「一つの中国」に異は唱えない一方、台湾と経済、軍事の両面で関係を深めてきた経緯がある。

 台湾を「核心的利益」とみなし、武力統一も視野に入れる中国が軍事侵攻した場合に、米国はどう対応するのか。バイデン大統領は介入を明言したが、米政府としてはあえて明確な姿勢を示さない「あいまい戦略」をなお続けている。

 ところがペロシ氏の台湾訪問でバランスが崩れた。立法府の長とはいえ、副大統領に次いで大統領権限を継承することもある要職が蔡英文総統と会談し、「米国は台湾と団結する」と中国の習近平指導部をけん制したからだ。中国側の事前の警告を結果的に無視したことで反発を不用意に招いた感もある。

 当初、バイデン氏も難色を示した台湾訪問に、なぜペロシ氏は踏み切ったか。米民主党の対中強硬派としての信条に加え、自党を取り巻く厳しい状況も透けて見える。11月の中間選挙で苦戦が予想されるからだ。台湾政策は共和党と方向性が一致する数少ないテーマ。内政への批判をかわすため中国への強硬姿勢を演出する意図もあったとすれば、いかがなものか。

 1997年にも共和党の米下院議長が台湾を訪れている。この時は台湾海峡を挟んで中国と台湾がにらみ合う中、緊張緩和の役割を果たした面がある。今回とは様相が異なる。

 ただ今回の軍事演習も含め、台湾に軍事的圧力を強める中国の姿勢は国際社会からみれば、許されるものではない。

 中国は中国で、秋に共産党大会を控える。党総書記として異例の3期目を目指す習氏は「弱腰」との批判を避けるため、強い対抗措置に踏み切ったとの見方もできよう。とはいえ香港での民主派弾圧や言論封殺など習指導部の振る舞いが、米国内での対中強硬論につながっていることも忘れてはならない。

 今年はニクソン米大統領が中国を訪問し、米中関係が対立から和解へ転換してから50年の節目だ。大局的な視点に立ち、関係改善に向けた半世紀の知恵を生かす必要もある。

 国連のグテレス事務総長も、「われわれに世界を二分する余裕はない」と述べて早期の事態収拾を求めた。ペロシ氏台湾訪問の余波は既に経済分野にも及びつつある。米中両国は本音としては現時点での極度の関係悪化を望んでいないはずだ。さまざまなチャンネルを使い、対話の糸口を見いだすべきだ。

(2022年8月5日朝刊掲載)

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